海外 2023.06.06

クライストチャーチボーイズ高の渕上裕が伝統の一戦で先発。トライも挙げる

[ 松尾智規 ]
クライストチャーチボーイズ高の渕上裕が伝統の一戦で先発。トライも挙げる
ハカを終え、相手に向かっていく渕上裕。(撮影/松尾智規、以下同)



 ラグビー王国ニュージーランド(以下、NZ)で100年以上続いている伝統の一戦で、日本人高校生が先発出場した。
 トライも挙げて勝利に貢献し、歴史に名を刻んだ。

 NZの名門校 クライストチャーチボーイズハイスクール(以下、CBHS)のYear11(日本でいう高校1年生)にしてファーストフィフティーン(1軍)に選ばれた渕上 裕 (ふちがみ・ひろ)のニュースを5月にお伝えした

 5月13日のMiles Toyota Premiership (クルセイダーズの地域の1st XVの試合)の開幕戦で12番で出場した渕上は、2戦目以降はWTBで毎試合先発出場をしている。

 渕上が背番号14を付けて出場したクライストカレッジとの伝統の一戦は、5月31日にCBHSのグラウンドでおこなわれた。
 南島で最大級と言われている因縁の対決は、極めて盛り上がる毎年恒例の行事となっている。

  対戦相手のクライストカレッジの卒業生には、SO/FBダミアン・マッケンジー、PRジョー・ムーディー、埼玉パナソニックワイルドナイツのヘッドコーチのロビー・ディーンズ(元オールブラックス)など、その他にも有名な選手を多く輩出している。

 CBHS × クライストカレッジの伝統の一戦は、1892年(34-0でクライストカレッジが勝利)に始まった。130年を超える歳月を重ねた歴史がある。

 過去3年の対戦を見ると、昨年は47-33(CBHS勝利)、2021年は35-34(クライストカレッジ勝利)、2020年は 28-27(クライストカレッジ勝利)と因縁の対決だけに白熱した試合となっている。

 伝統の一戦では、特別な事がおこなわれる。
 CBHSはクライストカレッジとの試合当日の朝、ファーストフィフティーンの選手がアダムハウス(CBHSの寮)に集まり、朝食を共にする。
 その後学校に移動して全校集会に参加する。 

 全校集会には、昔のファーストフィフティーンである年配の方たちも招待される。
 さらには、選手の親も招待される。
 試合に出場する選手が紹介されて壇上に上がり、他の生徒たちが選手たちに向けてハカを贈る。
 今年は、OBでもある元オールブラックスのCTBアーロン・メイジャーのスピーチがあったようだ。

 全校集会後に一時限のみの授業がおこなわれ、午後12時キックオフの伝統の一戦に学校を挙げて挑むことになる。
 一般生徒の観戦は自由も、多くの生徒が残って観戦していた。

クライストカレッジのハカ
ピッチぐるっと囲む大勢の観客

 青と黒(CBHS)、白と黒(クライストカレッジ)のスクールカラーを身にまとった生徒、OB、一般のラグビーファンが、サイドラインを囲んで一戦を見守るのがいつもの光景だ。その数は千人を超えただろう。
 現役OBに関わらず、両校にとってこの一戦がいかに特別か。現場では、それを感じることができる。

 キックオフの時間が迫ってくると両校のサポーターが騒がしくなる。ときには、荒い言葉も出てくることも珍しくない。サポーターも戦う姿勢が感じられる。
 過去にはピッチ内外を問わず、小競り合いが起こった事もあるそうだ。因縁のライバル対決だ。選手以上にサポーターの方がピリピリしている雰囲気がある。

 エキサイトしたサポーターがピッチに入らないように、ピッチの周りには工事現場で見かけるようなバリケードが置かれていた。
 試合を見るにも警備員のいるゲートを通らないと会場に入ることができない。厳重警備の中での開催が、伝統の一戦の大きさを物語る。
 選手入場を、応援に来た生徒、若いOBなどが大きな声で出迎える。いつもの公式戦とは違う雰囲気であることは明らかだ。

 両校のハカがおこなわれる。いつも以上に気合が入る。観客を釘付けにした。
 ハカが終わると両軍が詰め寄り、睨み合う。伝統の一戦ならではの光景だ。
 渕上も、相手に向かって歩いていった。気の強さが伝わる。

 試合は、ホームのCBHSがほとんどの局面で試合を支配した。
 まずは、抜群のゲームメイクをする司令塔のウィル・ヘイグが 手堅くドロップゴールで先制した。ヘイグはその後も自らの突破でディフェンスを切り裂く。トライも挙げた。

 開幕戦でもひと際目を引いた15番、ボギ・キカウもスピードとキレのあるランで一気にゴールラインまで持ち込んだ。
 NO8マーシャル・ブレイクリー、HOマヌマウア・レティウの高校生離れした突破力は、CBHSを常に勢いに乗せた。

 クライストカレッジは、ペナルティゴールで3点を返すのがやっとだった。前半を22−3とリードしたCBHSは、後半に入っても勢いが止まらなかった。

 56分には、渕上が会場を沸かせた。
 突破力のある13番ジャック・ブッシュ・ウォードのオフロードパスを貰い、インゴール右隅に飛び込んでトドメを刺したのだ。
 渕上にとっては、ファーストフィフティーンでの初トライだった。

トライも奪った渕上裕
ハーフタイムに在校生がハカで選手たちを鼓舞する

 その後も1トライを追加したCBHSが37-3で伝統の一戦を制した。試合後は、生徒がバリケートを乗り越えて選手たちに向かって走り出す。伝統の一戦ならではの光景だ。
 ラグビー経験の有無に関係なく、生徒がひとつになる様子を見るのは良いものだ。

 ピッチに入ってきた生徒たちに担がれた渕上は、日本でいう胴上げのような祝福をされた。 本人も、まんざらではない様子だった。
 生徒たちに担がれたシーンとトライの瞬間の写真は、地元クライストチャーチの新聞に掲載された。

 試合後はアフターファンクション、勝利のお祝いが夜遅くまで続いたようだ。
 伝統の一戦でトライを取った渕上は、さぞかし嬉しかったに違いない。

 渕上の家族は一家総出で活躍を見守った。その目の前でトライを挙げ、伝統の一戦での勝利。試合後は、家族の誰もが笑顔だった。
 そして、楽しみはまだまだ続きそうだ。

試合が終わると、みんなで選手たちのもとへ走り出す



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