国内 2023.04.09

あふれるイーグルス愛。クリエルはなぜ、「人がやりたがらないこと」をするのか。

[ 向 風見也 ]
あふれるイーグルス愛。クリエルはなぜ、「人がやりたがらないこと」をするのか。
南アフリカ代表として59キャップを持つイーグルスのジェシー・クリエル(撮影:松本かおり)


 朝、目が覚めると、ジェシー・クリエルは己に問いかける。

「自分は、このチームを勝たせられるのか…と。いろんな分かれ道に立った時に、どちらに行けばチームに貢献できるのか、を常に考えます」

 2019年のラグビーワールドカップ日本大会で世界一となった、南アフリカ代表の29歳。在籍4季目となる横浜キヤノンイーグルスへの思いを語ったのは、3月下旬のことだった。場所は都内の本拠地である。

「人がやりたがらないことをやるのか、やらないのか、という判断に迫られる。そして、それをやる方が、チームにとって貴重な存在になると(結論が出る)。例えば、オフの日。ここに来てエキストラでリカバリーやトレーニングをしたり、ホームワークとして何らかの映像を見たり…。それを繰り返します。周りに言われます。どうしてここまで犠牲を払っているのかと。自分としては、そんなふうに思っていない。心から愛していることをしているのですから。ここに来て練習すること、勝つことも大好きで、このチームのためにやりたい気持ちが強いから、苦にはなりません」

 イーグルスに移籍2年目の梶村祐介は、この世界的名手とCTBでコンビを組むことが多い。自分よりも4センチ大きな身長185センチ、体重95キロのクリエルに触れ、この人の「チーム愛」を感じる。

 感嘆するのは、ファンを沸かせる突破力、タックルに対してだけではない。味方が抜かれたら駆け戻る、所定の位置に素早くつくといった「ボールを持っていない時の運動量」を賞賛する。

「それこそ、まさにチームへの愛です。間近(な場所)でプレーできるのは幸せなことです。(クリエルの)姿を見て、このチームに入ってよかったなと思います」

 身体の奥底からわきあがる忠誠心で、組織のモラルを高めるクリエル。それでも本人は、このチームで成長できることへ感謝するのみだ。

 2020年夏、元日本代表コーチングコーディネーターの沢木敬介監督が就任した。実戦仕様のトレーニングで攻防のバリエーションを増やし、一戦必勝のプランと献身で勝ち切るのを目指してきた。

 舞台裏では、三顧の礼で迎えた海外出身者へも日本人選手と同様に扱う。試合を終えるごとに、プレーの改善点を忌憚なく伝える。

 クリエルはうなずく。
 
「たとえ世界一の選手であっても、(要求されたことが)できていなかったらちゃんとやれと言われます。そう接してくれるからこそ、外国人も彼をリスペクトしています。私にも、私のベストを引き出そう、私をいい選手に育てたいという気持ちが伝わります。あとは、敬介さんは高いレベルでのコーチング、プレーを経験している。勝つのに何が必要かをわかっている」

 沢木体制が発足して1シーズン目は、当時のトップリーグでの順位を16チーム中12位から5位タイ(8強)に引き上げ、2年目に入ったいまの国内リーグワン1部では目下4位。クラブ史上初のプレーオフ行きに近づく。

 取材日までの全12試合で挙げた8つの白星には、相手の激しい圧力や当日の笛に首尾よく対応してもぎとったものも含まれる。クリエルは「きつい試合もありましたが、そういう時にこそ本当のド根性、底力、気合いがわいてきました」と話し、チームの進歩を語る。

「マインドセットが一番(成長した)。あとは結束力が強いです。外国人の選手、社員メンバーとも、めちゃめちゃ結束力が高い。誰からも変な目で見られず、気兼ねなく自分を表現できるんです。オフフィールドでの結束力の高まりが、グラウンドでも生きている」

 ここでの「外国人の選手、社員メンバー」は日本語で話した。週に3回ほど語学レッスンを受け、日常会話やチームへの声掛けはネイティブ並みに聞こえる。

 冬場に防御の練習をするさなか、円陣を組んで「皆さん、いまの規律、めっちゃ、いいです!」と仲間を励ますこともあった。

 次の第14節は4月9日。敵地の千葉・柏の葉公園総合競技場でNECグリーンロケッツ東葛とぶつかる。

 イーグルスへの愛情を表現することで、グリーンロケッツに脅威を与える。

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