国内 2023.01.14

学生時代の苦労も糧に。ダイナボアーズの坂本侑翼が好守連発。

[ 向 風見也 ]
学生時代の苦労も糧に。ダイナボアーズの坂本侑翼が好守連発。
ブレイブルーパス戦で奮闘してダイナボアーズの歴史的勝利に貢献した坂本侑翼(撮影:松本かおり)


 走者に刺さる。押し返す。

 迫りくる相手が大きくとも、「下(半身)に入れば、倒せる。そこは自信をつかんでいるところで」。ラグビーの醍醐味、タックルで光る。

 坂本侑翼。三菱重工相模原ダイナボアーズ所属の24歳だ。身長176センチ、体重95センチと決して大柄ではないものの、ぶつかり合いの多いオープンサイドFLを担う。

 国内トップのリーグワン1部では、デビューを飾った開幕節から4試合連続で先発出場中だ。クラブにとって昇格初年度のシーズンを、粘り強く戦う。

 1月14日には東京・秩父宮ラグビー場で、旧トップリーグ時代に5度優勝の東芝ブレイブルーパス東京を23-19で制した。同カード史上初となる白星を今季通算3勝目(1敗)につなげ、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた。

 12点差を追う前半20分には、自陣22メートル線手前の中央あたりでジャッカルを放つ。反則を誘う。

 7-12と点差を詰めていた同36分には、自陣中盤左中間のスペースを破られると中央付近から一気に駆け戻る。

「運動量とハードワークを(意識)しなければいけない」

 自陣ゴール前左へ迫る走者を、必死に捕まえる。

 リードを奪った瞬間も、この人が光った。

 まずは後半19分だ。ハーフ線付近左の自軍ラインアウトから展開し、味方SOのジェームス・シルコックが左前方へハイパントを放つ。

 その高い弾道を、坂本は「あ、これ、タックル、いけるな」と迷わず追う。読み通りとなる。ボールが落ちてきた敵陣中盤左で、捕球役を倒すのだ。

 ここから味方が束となり、攻守逆転に成功する。1分以内に同点トライを決め、間もなく14-12と勝ち越すのだった。以後は互いに点を取り合いながら、僅差で勝った。
 
 ここまでの4試合を通し、トヨタヴェルブリッツが擁する南アフリカ代表のピーターステフ・デュトイ、ブレイブルーパスの魂たる日本代表のリーチ マイケルら、世界で活躍する大物を向こうに回してきた。

 坂本は「今季、デビューしましたが、大学までと全然、違って、身体の疲労が抜けないところがありました」と苦笑する。

 ただし、矜持を示すのも忘れない。

「僕は相手を一発で倒すこと、常に相手を倒し続けることを求められている。ワールドクラスの選手と対戦でき、自信がついた部分もある。それを、プレーに活かせたらと思います」

 鮮やかなトライやゴールキックだけがラグビーではないと、身体で示してきた。タックル、ジャッカル、献身性。いずれも学生時代からの長所としてきた。

 渋い働きをしてきたのは、グラウンドの外でも然りだった。

 思い返されるのは高校時代だ。

 5歳で楕円球と出会った坂本は、地元・千葉の強豪である流経大柏高へ進んでいる。副将となった2016年度、チームは改革期にあった。

 いまも指揮を執る相亮太監督は、モデルチェンジを断行していた。例えば長時間おこなっていた練習を、一部、短時間集中型に切り替えた。その代わりに、学生へはすべての局面で手を抜かないよう求めた。

 ところがある日、本来ならばもっと早く走れるはずの選手の動きが緩んだように映った。戒めの意味も込めてか。グラウンドから出ていくよう告げた。

 坂本は、それをよしとしなかった。

 指揮官の厳命を素直に受け入れそうになった仲間に練習へ戻るよう説得し、相監督へも許しを請うた。

 調整役を担うのは、この人の運命なのか。

 流経大へ内部進学すると、ラストイヤーにあたる2020年度に世の中の激変を受け入れる。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、3桁を数える部員が茨城県内の寮で「STAY HOME」を余儀なくされる。ちょうど主将を任された坂本は、部屋で窮屈な思いをしていた部員をなだめて回った。

 加盟する関東大学リーグ戦1部の開幕は、普段より約1か月遅い10月に迎えた。

 ようやく身体を動かせるようになったなか、意識したのは話し合いだ。日々の練習後は、いつも使っている人工芝グラウンドの脇にある建物の小部屋へ集まった。その日を振り返り、翌朝以降の課題を定めた。

 流経大には多くの留学生選手が在籍するものの、チーム作りに関する選手間ミーティングは日本出身者だけでおこなう風潮があった。

 その文化にも、坂本はメスを入れた。

 当時の4年生が概ね同じ考えだったこともあり、話し合いは原則、全員参加とした。2学年下のバイリンガルであるシンクル寛造(現・ダイナボアーズ)に通訳を頼み、意思疎通を図った。

 国籍、出場機会を問わず、全ての部員を本当のチームメイトにしたかった。

 果たして流経大の坂本組は、それまで3季連続で3位だったリーグ戦で2位となった。大学選手権では筑波大との3回戦で19-19とドロー。抽選で準々決勝にたどり着いた。

 最後は優勝する天理大に17-78と屈したが、船頭役は最後まで刺さった。

 当時の経験は活かされているか。

 ダイナボアーズの7番は控えめに笑った。

「(自分の意見に)ついてきてくれる人が頼りになりました。だから僕は、(ダイナボアーズでは)主将の言ったことに100パーセント、コミットする意識でやっています」

 リーダーにとって頼りになる選手像を、肌で知る。他にリーダーがいるチームでの振る舞いも、自ずと定まる。

 22日には、本拠地の相模原ギオンスタジアムで静岡ブルーレヴズに挑む。緑の壁を敷くチーム方針のもと、タックルを放つ。

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