コラム 2022.10.06

【コラム】ワールドカップに臨む。勇気と、愛の結晶。

[ 野村周平 ]
【コラム】ワールドカップに臨む。勇気と、愛の結晶。
Lesley McKenzie/1980年12月23日生まれ。HOとしてカナダ代表キャップ25。NZでもプレーし、引退後はカナダ国内のほか、NZの複数の地区連盟で育成プログラムなどを担当。2019年より現職(撮影:松本かおり)

 日本ラグビーは、よき外国人指導者との出会いに恵まれているのかもしれない。レスリー・マッケンジーHCの言葉を聞く度にそう感じる。

 1年延期を経て、幕を開ける女子15人制のW杯(ワールドカップ)ニュージーランド大会。日本代表サクラフィフティーンの9日の初戦はカナダ。HCの母国である。

 しかし、彼女は「カナダと戦うことでエモーショナルになることはない」と言い切る。チームとは決してコーチのものではないという信念があるからだ。レスリーの言葉は、こうつながっていく。

「でも、選手たちがW杯で何を成し遂げられるかを考えるとエモーショナルになる」

 選手たちを深いところで信じ、愛情を持って接してこなければ、この感情は抱けない。

 海外の強豪チームを敵地で破るなど、女子代表の歴史を塗り替えてきたヘッドコーチのコーチング哲学は、四つの言葉に集約される。

 挑戦、勇敢、正直、そして楽しさ。

 日本に来る前、ニュージーランドでユース世代や男子など様々なカテゴリーのコーチをした。ラグビー王国で苦労しながら身に染みたのは、「どんな環境であれ選手に必要なものを引き出すのがコーチの役割」という職業倫理だった。

 新しいこと、得意でないことでも勇気を持って挑戦することを是とする。「選手を心地いい場所に安住させない」とエディー・ジョーンズはよく言っていたが、彼女はそれを「常に選手にチャレンジがある状況を作りたい」という言い回しで表現する。

 その「チャレンジ」に必要になってくるのが勇敢さであり、正直さであり、楽しさなのだ。

「あなたをフッカーで使う気はない」

 齊藤聖奈は2019年、代表HCに就任したレスリーにきっぱりと言われた。前回W杯の日本のキャプテンは一瞬、面食らったという。代表では前1列(フッカー、プロップ)でしかプレーしたことがなかったからだ。

「W杯を見たけど、あなたはフロントローとしてサイズが足りない」と理由を告げられた。「だからポジションを変更したい。チャレンジする気はある?」。言いにくいことも正直に伝えるのがレスリー流。ただ、あっけらかんとした齊藤も負けていなかった。

「チャレンジ到来の時が来た」。すぐにそう切り替えて、「お願いします」と首を縦に振った。彼女はポジション変更3年にして、いまやサクラフィフティーンに欠かせないフランカーに成長した。

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