日本代表 2022.08.26

雌伏期間の心境、リーダーからの学び。日本代表の齋藤直人が振り返る夏。

[ 向 風見也 ]
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雌伏期間の心境、リーダーからの学び。日本代表の齋藤直人が振り返る夏。
7月9日のフランス代表戦で先発した齋藤直人。試合中よく声を出し、チームを操る(撮影:松本かおり)


 齋藤直人は「申し訳なさのほうが大きかったですね」と話す。

「結構、はじめのほうだったんで…」

 6月29日までに、新型コロナウイルスに感染しているとわかった。

 折しも、ラグビー日本代表として宮崎で動いていた。チームのフィジオに症状が出たのを受け、接触のあるメンバーが抗原検査を実施。齋藤が陽性反応を出した。喉に違和感もあった。

 言うまでもなく、感染すること自体は悪ではない。ただ、その後もチームで体調を崩す選手が相次いでいて、齋藤はその流れの「はじめのほう」だったとあり、やや肩身が狭かったようだ。

 その一方で、仲間の温かさを感じた。

「チームメイトは気にかけてくれて、ちょくちょくLINEをしてくれました」

 7月2日、愛知・豊田スタジアムでのフランス代表戦は欠場した。当時はまだ隔離生活の只中。時間が経つなかで気持ちを切り替え、復帰後を見据えていた。

 まずはスタッフを介し、練習やミーティングの中身を共有した。大きな不調がなかったことにも助けられ、部屋でできるトレーニングで体力を維持できた。

「アナリストの方に練習(の映像)を送ってもらったり、ミーティングも見られるようにしたりしました。自分の戦術理解が遅れるという意味での不安は、ありませんでした。(肉体的にも)そんなに落ちた感覚もなかったと思います。(隔離中も)身体のだるさはなく、部屋のなかでやれることはやったので」

 7月3日に復帰。ドクターの指示に従い、ホテルや試合会場への移動時はチームメイトとは違う車に乗るようにした。9日、東京・国立競技場で背番号9をつけた。公式で「57,011人」という観客の前で、フランス代表との再戦に挑む。

 果たして、テンポよく攻めをリードした。チーム全体でラン、キックの配分を見直したのも奏功してか、1試合目の23-42というスコアを15-20に縮めた。白星を逃したのは悔しかったが、手応えをつかんだ。

「ミスはしたんですが、迷いとかもなく、思い切りやれたという印象があります」

 グラウンド外でも得るものがあった。昨年、代表入りしたばかりにもかかわらず、リーダー陣に加わった。再確認できることがあった。

「まず、チームがやりたいことを自分たちが一番、理解すること。それがないと、(内容を)選手に伝えられない。いままでも気づいていましたが、今回、あらためてそれが(大切だと)わかりましたね」

 過去3度のワールドカップに出た堀江翔太とは、今回、初めて同じチームで活動した。海外経験が豊富でコンディショニングへの造詣の深い堀江からも、多くを吸収した。

「堀江さんが以前、海外に挑戦した時の話、トレーニング、食事のこと…。いろいろと聞きました。堀江さんは『おっさんだから(余計に練習を)やらなきゃ』とよく言うんですけど、逆に、『堀江さんみたいに結果を出している人でもこんなにトレーニングするんだ』というものを目の前で見られた。どんなトレーニングをするかはともかく、自分も、やらなきゃ、だな、とは思いました」

 ちなみに堀江は36歳で、齋藤は8月26日に25歳となった。齋藤はベテランに学べたことに感謝するかたわら、自分と似た立場の若手の貪欲さも目立ったと話す。

「代表に慣れている人には、いい意味で余裕がありました。それと、自分を含めて新しく入った人には、『ここで(チャンスを)つかまなきゃ、先がない』という意識があった気がします」

 チームをリードする者と、チームに定着しようとする者。その化学変化が尊い。

 日本代表は10月以降、国内外で強豪国とのテストマッチを実施。ニュージーランド代表、イングランド代表、フランス代表とぶつかる。2023年のワールドカップ・フランス大会を見据える。

 今夏、「経験に勝るものはなし」を実感できた齋藤。「たくさんの方に代表のユニフォームを着て応援していただけたのは嬉しかったです。毎試合、毎試合、ああいうふうに来ていただけたら嬉しいですね」とも話した。

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