国内 2022.08.07

注目の移籍。日本代表入り目指すブロディ・マクカランがブラックラムズを選んだわけ。

[ 向 風見也 ]
注目の移籍。日本代表入り目指すブロディ・マクカランがブラックラムズを選んだわけ。
リコーブラックラムズ東京の一員となったブロディ・マクカラン(撮影:向 風見也)


 ブロディ・マクカランは決めた。
 
「いま、28歳。大事の、判断(の時)」

 ラグビー選手として中堅の域に入ったいま、3シーズン在籍のコベルコ神戸スティーラーズを離れた。

 来季に向け、リコーブラックラムズ東京に移籍。8月4日の全体練習後、日本語で話す。

「周り(の選手)はフレンドリーな感じ。いい緊張感、皆の成長したい気持ちが伝わります。トレーニングの時、自分のことだけを考えないで、全員が成長するために、全員でしゃべっている」

 マクカランが2019年に入った旧・神戸製鋼は、巨大戦力を誇っていた。20年まではダン・カーター、同年以降はベン・スミスと、ニュージーランド代表経験者が数多く在籍してきた。

 何より加入当初は、同代表のアシスタントコーチだったウェイン・スミス総監督(現メンター)が、かなりの頻度で来日していた。

「ワールドクラスの選手、コーチがいっぱい、おって、いい経験ができたと思います。ウェインは、選手の自信を作る。パスとか、ランニングラインとか、同じこと(動作)を癖になるまで、何回も、何回もする」

 クラブの価値をこう語るマクカランは、今年5月までの国内リーグワン元年で実戦13試合中8度出場。そのうち7回は先発だった。

 さらなる飛躍を期待させたが、シーズンを終える頃には「神戸に残るか、チームチェンジで新しい方向に行くか…」と検討し始める。改めて、今後のキャリアを左右しうる「大事の、判断(の時)」に差し掛かっていたからだ。

 市場に手を挙げると、複数のオファーをもらえた。

 身長192センチ、体重105キロとサイズに恵まれるうえ、器用さと運動量を持ち味とする。さらに日本語も堪能。加えて2018年度までプレーした帝京大の岩出雅之前監督いわく、「これまでの(在籍した)留学生で、一番、手がかからない」。朗らかで聡明だと知られていた。

 何よりリーグワンのレギュレーション上、「カテゴリA」に位置付けられる。外国人枠にあたる「カテゴリB」「カテゴリC」は試合ごとの登録人数に上限があるものの、「カテゴリA」のマクカランは国内出身者と同じように出番をうかがえる。

 プレー、人柄、肩書きの合わせ技でニーズを高めたわけだ。

 数ある選択肢からブラックラムズを選んだのは、同部の醸す空気にあった。

 昨季順位ではスティーラーズを2つ下回る9位も、積極的な若手起用が際立っていた。主将は25歳のHO、武井日向で、司令塔は23歳のアイザック・ルーカス。万能バックで21歳のメイン平は、シーズン終了後に日本代表デビューを果たした。

 マクカランは同部にいる旧友に聞き取りをおこない、学生時代以来となる上京を決めた。

「神戸とは、全然、悪い終わり方じゃない。いっぱい友だちがいるし、コーチとも仲が良かったから、簡単な決断ではなかった。けど…。新しい環境にいたら——自分のパフォーマンス次第だけど——(試合に出る)チャンスが増えると思っています。リコーは(活動する)場所もいいし、若いメンバーとベテランとのバランスがいいし、外国人と日本人もミックスな感じだと(聞いた)。日本語がしゃべれない外国人選手は外国人同士で固まる(チーム)もあるけど、(ブラックラムズの海外出身者は)日本語があまりしゃべれなくても日本人と一緒におるよ、と」

 そもそも異国に住むことにしたのは、幸福な人生を創るためだ。

 ニュージーランドのハミルトンボーイズ高を卒業してからは、しばらく大工仕事で生計を立てた。ただ、「僕の目標はプロフェッショナルラグビープレーヤーだった」。自分の可能性をあきらめたくないと思っていたら、遠い日本の大学に誘われた。意を決した。

 時折、関西弁が混ざるのは、東京郊外の帝京大に大阪や奈良の強豪校出身者が多くいたからだった。

 2015年の来日時は、高校1年から交際中の恋人を国に残していた。スティーラーズ加入後に同居を始め、いまでは子どもが生まれて3人家族となった。直近のオフは約2年半ぶりに帰郷し、この夏は新生活に高揚感を抱く。

 2歳年下の弟で帝京大卒のニコラス・マクカランは、東芝ブレイブルーパス東京に在籍。今度の引っ越しで住まいが近くなったのが嬉しいと、兄は笑う。

「神戸にいた時は、(弟の住まいから)ちょっと遠い。1日(日帰り)はできんから、プランニングせなあかんかった。けど、いまは行って、帰って、ができる!」

 好きな人たちに囲まれ、好きな仕事ができて楽しい。これで日本代表に入れたら最高だが、まずは地に足をつけたいとも話す。

「もちろん、日本代表にはなりたいです。ワールドカップも出たい。でも、いまはリコーに集中したい。ジャパンのことだけ考えていたら、リコーでのパフォーマンスがよくならない。自分の思っている自分の強み、いままでも出していないわけじゃないけど、もっと出せる。試合中、もっとボールを触りたいね。ラインブレイク、オフロードパスで、チームメイトのチャンスを作りたい」

 憧れの「プロフェッショナル」になって4年目に突入した。与えられた役割を全うするのが流儀だ。

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