コラム 2022.03.16
【ラグリパWest】京都工学院、全国舞台に戻る。

【ラグリパWest】京都工学院、全国舞台に戻る。

[ 鎮 勝也 ]
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 石田は成長を感じている。
「試合で相手からボールを奪うことも多くなってきたと思います」
 競技を始めたのは中1。通学する小栗栖(おぐりす)ではなく、工学院の下部組織ともいえる伏見クラブのジュニアチームだった。運営の中心にいる坪井一剛もまた伏見工のOBである。石田は小学校でタグラグビーを経験。コンタクトが加わっても戸惑いはなかった。

 工学院に進んだ理由を語る。
「ここ数年、京都成章に負けています。そのリベンジを果たそうと思いました」
 冬の全国では95回大会を最後に6連続で青黄のジャージーに先んじられている。

 その工学院の優勝回数は4。歴代6位になる。創部は1960年。最初の全国制覇は60回大会(1980年度)。平尾誠二を主将に決勝で大阪工大高(現・常翔学園)を7−3で破った。山口は就任6年目で日本一監督になる。その軌跡はテレビドラマや映画の『スクール★ウオーズ』のモチーフになった。

 坪井は2回目、大島は3回目の優勝時の主将である。NO8だった坪井は72回、大島は80回。選抜大会でも1度、頂点を極めた。15年前の8回大会では決勝で桐蔭学園を17−12で降している。

 その復活に向け、昨年、社会科教員でもあるコーチが加わった。細川明彦。伏見工のラグビー部から初めて早稲田に進んだ。現役時代はSO。同期でレギュラーだった曽我部佳憲に挑んだ。曽我部は卒業後、ヤマハ発動機(現・静岡)に入った。工学院の現場はコーチの髙橋健と合わせ3人体制になる。

 2歳上の大島の評価は高い。
「いいですね。彼は努力型のSOですから」
 頑張ることを知っていて、それを部員たちに説くことができる。高校生にはうってつけ。石田も話す。
「対戦相手のバックスの特徴を分析して、教えてくれます」
 赤黒っぽさは今も残る。工学院には日体大の根性と早稲田の理論が溶け合う。

 6年ぶりの全国大会に、周囲も盛り上がりを見せる。最寄りのJR稲荷駅や京阪龍谷大前深草駅近くのクリーニング屋などにはポスターが貼られている。「祝 全国選抜大会出場」の文字と選手の写真が躍る。

 初戦は25日。朝明(あさけ=三重)と戦う。勝てば翌日、大津緑洋(山口)と流経大柏(千葉)の勝者と対戦する。連勝すれば8強入り。山口は大島にもらしたという。
「ベスト8までいけば、有観客になるかもしれない。そうなれば応援に行きたい」
 京都から東京を経由して熊谷まで新幹線でも3時間以上かかる。体にしびれがある山口は無理を押してでも、孫のような選手たちの晴れ姿をその目で見たい。

 工学院の黒の短パンの左すそ後ろには、「信は力なり」と金糸で縫い付けられている。山口が日本代表のFL時代、監督だった大西鐵之祐に示された言葉である。今やチームスローガンになった。部員数は女子マネ3人を含め50人。お互いがお互いを信じ、6年ぶりの全国舞台でその健在ぶりを知らしめたい。


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