目的地に近づくと「内臓が痛い」。22歳で代表予備軍入り、福井翔大の実感。
有名選手の群れに混ざる。9月29日から、宮崎での日本代表候補合宿に参加している。22歳の福井翔大は、「胃がキリキリしている、っていうやつです」と苦笑する。
「違うチームでいちからポジション争いをするのは緊張感があって。内臓が痛い感じがします」
正規の候補選手と異なる、ナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)の枠での選出だ。
2018年に東福岡高からパナソニック(現 埼玉パナソニックワイルドナイツ)入りし、「高卒プロ」として話題を集めている。早期の日本代表入りをかねての願いとしてきた。
目指していたものに近づくほど、冷静ではいられなくなるのだろうか。初日のミーティングでは、グラウンド外で活動する際の「ミニチーム」の振り分けがあった。誰と同じグループに入ったかと聞かれ、福井はこの調子で返す。
「順番的にはドラフト1位だったんで気持ちよかったです! ミーティング中、緊張していたので(ミニチームの顔ぶれは)あまり覚えてないんですけど…」
話をしたのは30日。キャンプ最初の体力測定を終えてからのことだ。自身と同じFW第3列で2019年のワールドカップ日本大会に出たリーチ マイケル、姫野和樹の名を挙げ、こう述懐する。
「周りの皆さんが優しくてストレスは(感じ)ないんですが、ビッグネームというか、目標としていた人たちがいざ目の前に現れて、萎縮はしちゃっているかなと。試合中は(相手の)顔を見ないんで(大物との対戦にも)何とも思わないですけど、プライベートというか、冷静な時に見たら『おー…』となります」
2人部屋のルームメイトは、こちらも2019ワールドカップ組で同ポジションの德永祥尭だった。この人と日常を過ごすと、改めていまいる場所のスタンダードを感じられる。
「一緒の部屋で、ずっとストレッチしているし。意識は高いな…と」
身長186センチ、体重101キロ。加速力を活かした突破は折り紙付きで、肉弾戦でも活路を見出す。タックルをした後に素早く起き上がり、すきあらば接点上の相手ボールに絡む。下働きのいろはは、入部時に在籍していたニュージーランド代表経験者のマット・トッドに学んだ。
パナソニックでは他にも、2020年まで在籍していた元オーストラリア代表のデービッド・ポーコック、日本代表として7キャップを持つ布巻峻介ら、地上戦の職人が数多く活躍してきている。何より稲垣啓太、堀江翔太ら日本大会組も多数、在籍する。
福井は巨大戦力を誇るクラブへ若くして加わり、今度のNDS入りを勝ち取ったわけだ。しかし、同じくパナソニックから代表候補入りの坂手淳史、松田力也からこう言われている。
「ジャパンは甘くないぞ」
どうやら、「(初選出を受けての)励ましは、一切ないです」とのことだ。
「パナに行って、褒められたことはないです。僕が調子に乗っちゃう性格なので」
かたや、年代別の日本代表として一緒にプレーした仲間たちからは、今回のキャンプ参加を喜んでもらえている。
他の同世代の星と異なり、大学へ進学せずに国内トップレベルのクラブへ挑んでいる。その、意地を示した。
「(大学かプロかで)どちらが正解とかはないですが、形として僕らの世代で僕が一番早く(代表合宿に)呼んでもらえたのは、こっちの選択のおかげなのかな、と思います。正直、今回の合宿で『これ』というの(目標)は決まっていないというか。漠然としているんですけど、何事も全力で、自分らしくいこうとは思っています。(周りの選手から)いろいろな考えも聞けて、プレーも知れる。ありきたりですが、いい経験ができています」
照準を合わせるのは2023年のワールドカップ・フランス大会。目的達成のため、いまを全力で生きる。