その他 2021.09.30

ラグビートップ選手と管理栄養士が語り合う『食育』と『コンディショニング』

[ 編集部 ]
ラグビートップ選手と管理栄養士が語り合う『食育』と『コンディショニング』
世界を見据えて日々を過ごす中村知春(写真左/なかむら・ちはる/ナナイロプリズム福岡所属/33歳)と松井千士(まつい・ちひと/横浜キヤノンイーグルス所属/26歳)

 二人とも、日本を牽引するトッププレーヤーである。7人制ラグビー(セブンズ)のエキスパートだ。
 松井千士(まつい・ちひと/横浜キヤノンイーグルス所属/26歳)は日本ラグビー界のスピードスターである。高速ランを繰り返すことを要求される競技にフィットする肉体を作り上げ、世界と戦ってきた。
 中村知春(なかむら・ちはる/ナナイロプリズム福岡所属/33歳)は、大学までバスケットボールで活躍していたが卒業後にラグビーに転向。前競技の特性も加えたタフネスさと卓越したリーダーシップでアジアNo.1の評価もある選手だ。
 強度の高いセブンズの分野で世界と戦うふたり。サントリーサンゴリアスの管理栄養士としてチームの強さの一端を担ってきた金剛地舞妃(こんごうじ・まいき)さんをまじえ、スポーツ栄養、コンディショニングについて語り合っていただいた。

トップ選手の栄養摂取と
コンディショニング

松井千士はスピードある走りが最大の武器

——トップ選手の栄養摂取やコンディション調整についての考え方、実践法は、若いアスリートをはじめ、広く影響を与えるものです。おふたりの実践していることを教えていただけますか。
松井 僕自身ラグビー選手の中では細い方で、すぐに体重が落ちてしまう傾向があります。特にセブンズは、1日に2〜3試合や2日〜3日で5〜6試合プレーするので、すごく強度が高い。その中で体重や体調を維持するために1日3食以外にも間食やサプリメントを摂るように心がけています。

中村 2016年以降、チームはフィジカル面強化の重要性をより強く感じ、栄養面にすごく力を入れてきました。ボディビルディングの先生から栄養の講座を受けたり、いかに効率よく身体を仕上げるかについて、チームとして取り組んできました。個人としても、栄養についての意識を高めてきました。私は汗を多くかくので、足がつりやすいとか、筋肉がつきづらい感じだったので、タンパク質を多く摂取するように心がけていました。

松井 確かに同じチームでも、個人差はいろいろあるように感じます。例えば、外国出身選手と僕では全く違います。彼らの中には同じ運動量でもなかなか体重が減らない選手もいて、僕とは逆に食事の量を減らさないといけない選手もいました。そういうストレスがある中でも、しっかり管理するのは簡単ではないように思いました。

——金剛地さんは、松井さんの前所属チーム、サントリーサンゴリアス で管理栄養士を務められていました。フォワード、バックスなど、ポジションごとに体格も必要とされる動きも違う選手たちに対し、どのように対応されていたのですか。

金剛地 いまお二人のお話を聞いて、しっかりした意識を持っていらっしゃるな、と思いました。まず、練習や試合で出し切ったもの、エネルギーをちゃんと戻してあげることや、消費した量に合った食事量を摂ることが基本なのですが、そこをしっかりされているのが素晴らしいですね。
 最近は大学時代に栄養士さんの教育を受けた上で新しく加入する選手も多くなりました。試合後やハードな練習後のリカバリーには、みんな意識が高い。
 また、ベテランになればなるほど栄養の重要性を理解していくように感じます。リカバリーの重要性などを理解し、こういう食事をしたらどうなるとか、いまの自分には何が必要なのかを本人も分かっていると感じます。

松井選手は体調管理を徹底し、パフォーマンス向上につなげている。
(写真協力/横浜キヤノンイーグルス)

松井 大学時代(同志社大学)に栄養の講師の方から教わったこともありましたが、1対1で詳細まで対応していただいたのは社会人になってからでした。ベテラン選手の方々から栄養のことについて教わったりして意識が変わったこともあります。

中村 私もそうですね。世界と戦って感じた差を埋めるためにトレーニングだけでなく栄養面についても積極的に知識を取り入れるようになったし、30歳を過ぎてからのリカバリーの重要性というのは痛感しています。栄養についての意識が自分の中でどんどん変化してきたと思います。

——女子の場合は、とても合宿期間が長い。厳しい栄養管理などは、ストレスにもつながりそうな気がします。

中村 若い選手たちは最初、ご飯は何グラムまで、お肉は何グラムと、結構厳しく管理される。最初は厳しく感じるかもしれません。ただ、だいたい知識がついて自分で管理できるようになってくるとそれぞれに任せてもらい、気になるところを管理栄養士さんにチェックしてもらうスタイルを取っていました。
 メンタルリカバリーは大事だと思っているので、合宿と合宿の間には少しお酒を飲んだり、普段きっちりしている分、リラックスもしています。

金剛地 食事管理にはメリハリが大事だと思っています。楽しむときは楽しむ。身体を作るときは作る。常に身体を作る食事ができたらいいのかもしれませんが、食事の力は身体を作るだけでなく、リフレッシュするとか、コミュニケーションにも使えるなど、いろんな力がある。例えばものすごく頑張った後は、栄養価を考えればそこまで高くないものでもリフレッシュできて、また練習を頑張ろうと思えるものであるならそれでいいと思います。栄養バランスだけでなく、総合的にバランスの良い食事を摂ることは必要で、高度なスキルだと思います。

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