国内 2021.09.24

自分の居場所は自分で。171cmのPR五十嵐優(横浜キヤノン)が、そこにいる価値

[ 編集部 ]
自分の居場所は自分で。171cmのPR五十嵐優(横浜キヤノン)が、そこにいる価値
神奈川県出身の27歳(左から2人目)。チーム名に「横浜」が付いて嬉しい。(撮影/松本かおり)



 入社6年目のシーズン(チーム練習)が始まって、そろそろ1か月。来年1月のリーグワン開幕へ向けて準備を進めている。
 横浜キヤノンイーグルスの五十嵐優(いがらし・すぐる)が、灼熱の太陽の下で汗をしたたらせていた。
 171センチ、101キロ。東海大出身の小柄なプロップだ。

 もうすぐ28歳。昨季はケガの影響で、2016年の入社以来、初めて出場なしに終わった。
 9月中旬、「まだコンタクト練習には参加できていない」状態だった。復活の途中にいた。
 今月下旬には合宿がある。そこでフルメニューに加わる復帰計画を立てていた。

 ルーキーイヤー、途中出場が多かったものの10試合に出場(2先発)。翌年はリーグ戦6試合出場で5先発。順位決定戦でも2戦出場(1先発)と気を吐いた。
 2018-2019年はリーグ戦6試合に出場して1試合先発。順位決定戦3試合にも出場して1試合先発と、チーム内で確固たる地位を築いてきた。
 シーズンが途中打ち切りとなった2019-2020シーズンも全試合の半分、3試合に出て2試合に先発した。

 昨季、シーズン前の準備期間は好調だった。新しく沢木敬介監督体制になったこともあり、張り切った。「いい感じでした」と振り返る。
 予定通りに1月に開幕していれば、そのまま好調を維持してシーズンに入れたかもしれない。
 コロナ禍の影響で、開幕が約1か月遅くなる。不運にも2月に入ってケガをした。

 すぐに復帰できるだろう。
 そう思っていた腰のケガは思った以上に重かった。閉幕後には手術に踏み切るほどだった。
 シーズン中、仲間たちがスクラムを押される姿を見つめることしかできなかった。
 迷惑をかけちゃったな。自分が入ったらどうなるだろう。
 いろんな思いが頭を巡った。

 シーズン終了後の個人ミーティングで、監督に「目の前にあったチャンスを逃したのは分かっているな」と言われた。
 自分自身もケガがなければ…の手応えがあったから、評価を得ていたことは分かった。「沢木さんに練習から100パーセントを見せろ、と言われていました。それに応えられていたと思います」と振り返る。

 ただ、その評価や期待は永遠ではないだろう。昨季の全休を、いい休養になったと言える余裕もない。
 力を伸ばす若手も多い。
 スクラムを組み込んだゆえのケガとはいえ、準備期の最後の最後に調整し切れなかったのは自分の責任。巻き返しを誓う。

「年齢を考えても、チャンスがまだ何度もあるとは思っていません。試合に出られなかったのにチームに残してもらえた、手術させてもらえたということも踏まえ、頑張って結果を残したい」と話す。

 小柄な1番で国内最高峰リーグの最前列で戦えてこられたのは、独自のスタイルを確立できているからだ。
 茅ヶ崎出身。藤沢ラグビースクールでこのスポーツに出会った。東海大相模高校の2年時から1番ひと筋。揉まれ、考え、存在感を示してきた。

 俺が、俺が。
 そんなタイプではない。「8人で組むスクラムのなかでひと役買えたら」と話す。
 トイメンの相手3番が大きくても、パワフルでも、揺さぶるタイプでも、自分が変わりなく組めたら味方は助かるだろう。

「どんな相手と対しても僕がいつも通りに組めるなら、(となりの)HOも(お尻を押す)LOもFLもプレーしやすいでしょう」
 結果、連係が崩れない。8人の力を最大化できる。

 長く培ってきたからこそ得たテクニックと知識は、自分の武器だ。しかし、ポジション内では年長の部類。そしてチームマン。
 後輩たちに伝えていくことも自分の仕事と考える。

 数年の間に先輩たちが引退や移籍でチームから去り、PRで年上は東恩納寛太だけになった。
「自分が入った頃は先輩たちがいて、いろんな面で助けてくれた記憶があります。いま(周囲の顔ぶれを見ると)、その立場になったのかな、と感じています」

「シンプルに、自分が先輩にやってもらったように(知識や経験を)還元したい」と言う。しかし、一歩引いてコーチ役になるつもりはない。
「経験値を伝えるためにも(若手と)競い合い、一緒にピッチに立つ中で教えるのがいちばん」と信じる。

 それが簡単ではないことも理解している。五十嵐の決意が強いのは、「経験から、チームにはベテランの存在が大事だと思っている」という信念からだ。
 経験値だけでなく、年輪を重ねた者たちの姿勢がチームに与える影響力、パワーを信じる。

「踏ん張りがきかずに試合に出られず、結果、(チームから)いなくなるのなら、経験を伝えられないまま終わってしまう」と話す小柄な1番は、覚悟を決める。
 昨シーズンは圧力を受けることの多かったスクラムを改善する力になりたい。

「自分が出ると、(昨年と)どれだけ違うのか見せられるように頑張りたい。変わらなかったら居場所はないと思っています」
 悲壮感はない。自己主張も。
 そこにあるのは、チームを強くしたい。良くしたい。そんな気持ちだけだ。

「自分ひとりだけで、できることではありません。チームにはいい選手がたくさんいて、その中に自分がいる。まず自分にフォーカスして、みんなと一緒に戦える状態を作ることが大事です。そこから、全員で(勝てるチーム。スクラムを)作り上げていきたい」
 チームにはベテランが必要。その理由が伝わってきた。

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