日本代表 2021.09.23

代表主将の「かわいい」弟。ベン・ガンター、代表初陣の相手は母国になりそう? 

[ 向 風見也 ]
代表主将の「かわいい」弟。ベン・ガンター、代表初陣の相手は母国になりそう? 
ベン・ガンター。髪をさっぱりして来週から宮崎合宿に臨む
こっちが散髪前

 突然、スキンヘッドになった。

 故郷のオーストラリアに約1か月半、滞在し、9月に日本へ戻るやトップの長髪を刈った。ベン・ガンターは笑う。

「休暇が終わって帰国してきて、新しい自分として頑張ろうかと思いました。(以下、日本語で)はい、そうです。リーチさんと同じ髪型です」

 ここでの「リーチ」はリーチ マイケル。日本代表としてワールドカップ2大会連続で主将を務めた、列島のラグビー界の象徴だ。

 ガンターは、7月上旬まで約6週間あった日本代表活動に参加。かねて憧れていたこの船頭と、行動を共にした。

 普段はそれぞれ埼玉パナソニックワイルドナイツ、東芝ブレイブルーパス東京と異なるクラブにいる2人が、今回チームメイトになった格好。9歳年下のガンターにとって、リーチは同じFLのポジションを担う先輩だ。聞きたいことはたくさんあった。

「リーチさんは本当に私の大きな兄です。リーチさんにとって僕は、『かわいい弟』なのかもしれません! いい関係性を築けていて、ラグビーについても、生活面についても話します。一緒にビデオゲームもします」

 ちなみに「かわいい」という表現は、チーム通訳が本人承諾のもと実際の表現をよりソフトにしたもの。他者の前に垣根を作らず、かつ殊勝にふるまうのがこの人の流儀だ。

 主将としてのリーチには、「懸け橋になれる」との印象を受けたとガンターは言う。

「リーチさんは、選手とコーチ、選手同士、日本人と外国人、それに限らず、人と人との懸け橋になれる人物です。その姿勢は尊敬しますし、彼ほど優れたリーダーにはこれまで出会ったことがない。場を読む力を持っていて、選手たちが怖くて発言できなかったり、言いづらいことがあったりする時、その心持ちを読み取り、代弁するようにコーチたちへ必要な質問や投げかけをする。そうして我々が気にしていることやうまく行っていないことを明らかにしてくれる。何より、それを自然にやってくれるんです」

 取材に応じたのは9月21日。宮崎での日本代表候補合宿への参加を8日後に控えていた。一時より頭髪は伸びた。

 同日、ガンターら日本代表候補メンバー39名が発表された。代表予備軍にあたるナショナル・デベロップメント・スコッドの5名とともに、29日から宮崎でキャンプに挑むこととなった。10月15日までにメンバーの数が絞られ、その戦士たちが16日から別府で鍛える。

 10月23日には、秋のテストマッチ4連戦の第1戦を迎える。

 場所は昭和電工ドーム大分。相手は「ワラビーズ」ことオーストラリア代表だ。

 前回のツアーで正規の代表戦に出られなかったガンターにとっては、母国代表との大一番が日本代表としての初陣となる可能性もある。

「ワラビーズの対戦が決まり、非常に楽しみにしています。きっと両国ともこの対戦を心待ちにしている」

 身長195センチ、体重120キロの23歳。ブリスベンボーイズ高時代は母国のスーパ―ラグビー加盟クラブ入りを狙うも、叶わなかった。オーストラリア軍入隊を検討していた矢先、パナソニックから練習生契約のチャンスをもらって命をつないできた。

 優れた身体能力を有した期待の若者は、ロビー・ディーンズ監督のおおらかさと厳しさ、吉浦ケインS&Cコーチのプログラムのもと、強くて反射神経のよい日本代表戦士と化している。きっとこの10月のビッグマッチに出られたら、未体験ゾーンに突入できるのではと武者震いする。

「我々のラグビーでワラビーズにショックを与えたいです」

 本来なら夏のうちの代表戦出場を「最低でも1試合は…と期待していた部分もあった」。ジャージィをもらえなかったことには「がっかり」しただけでなく、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチに言われた課題を肝に銘じてきた。具体的には、「80分(1試合)以上、動けるフィットネス」を体得しようと努めた。
 
 スタッフに渡されたプログラムで汗を流し、9月上旬までに義務付けられたフィットネステストで基準値をクリアした。

「今後も自分がやるべきことをやり続ける。コーチが私自身にインターナショナルレベルで戦う準備ができたと思った時、私自身も戦う準備ができていて、国際舞台に恥じないパフォーマンスができるようにしたい。来るべき出番で100パーセントの力を出す」

 特別な瞬間を迎えるべく、きょうもグラウンドに雫を落とす。

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