オールブラックス、来年から胸のロゴが「ALTRAD」に。一代で帝国築き上げたオーナーの横顔
週末のザ・ラグビーチャンピオンシップで、相変わらず強さを見せつけているオールブラックスだが、来年から黒のジャージーの胸のロゴが、『AIG』から『ALTRAD』になる。
先月、ニュージーランドラグビー協会とフランスの建設資材大手のアルトラッド・グループの間で、パートナーシップ契約が結ばれたことが発表された。契約期間は2022年から6年間で、その後4年延長もあり得る。
グループの経営者のモヘド・アルトラッド氏は、トップ14のモンペリエのオーナーだ。2018年からはフランス代表チームのジャージースポンサーでもあり、レ・ブルーのジャージーにもすでに『ALTRAD』のロゴが入っている。
小説家としての顔も持つ同氏は、フォーブス・フランスの2021年版のフランス長者番付で25位、推定資産は28億ユーロ(約3640億円)とされている。
契約発表の際に、「オールブラックスとアルトラッド、どちらも慎ましい原住民にルーツを持ち、世界のトップレベルで成功するに至るまでの道のりを歩んできた」とアルトラッド氏はコメントを添えた。
アルトラッド氏は、シリアの砂漠でベドウィン(遊牧民)の子として生まれ、生年月日は定かでない。1948年から1951年の間とされている。
幼い頃に親を亡くし、祖母に引き取られた。「羊飼いに読み書きは必要ない」と学校に行かせてもらえなかったが、こっそり授業を盗み聞きし、独学で読み書きを覚えた。
ある日、彼の存在に気づいた教師の援助のおかげで、学校に行けるようになった。
1970年にシリア政府の奨学金でフランス、モンペリエに留学。「最初のチャレンジは、フランスの言葉と文化を身につけること、そしてそれまでの自分を忘れることだった」とアルトラッド氏は回想する。
モンペリエ大学を卒業後、パリ第8大学で情報工学の博士号を取得した。エンジニアとして就職したのち、1980年に「モンペリエの建設用足場の会社が倒産しそうだから買い取らないか」と声をかけられて買収したのが現在のアルトラッド・グループの始まりだ。
2011年、モンペリエのラグビークラブが経営破綻寸前となり、「200万ユーロ(約2億6千万円)で買ってもらえないか」と相談を持ちかけられ、「お世話になった市や地方に恩返しができるなら」と承諾、それ以来ラグビーにどっぷりの人生になった。
今回のNZ協会との契約にはジャージーのロゴ以外に、モンペリエのクラブとのコーチングや育成における交流、契約期間内にモンペリエでオールブラックスの試合を4回することなどが含まれている。
また、代表引退したNZの選手がトップ14でプレーすることを希望する場合は、モンペリエがスムーズにアプローチできるようにNZ協会が調整してくれることになっている。