コラム 2021.05.14

【コラム】足掻く価値。もがきの力。

[ 谷口 誠 ]
【コラム】足掻く価値。もがきの力。
NZアオテアロアで新人賞を獲得した姫野和樹。そのプロセスで早くも挑戦の成果を掴んでいた(photo:Getty Images)

 この1年、国と国との距離がより遠くなっている。だからだろうか。南から届いた言葉がことさら頼もしく響いた。「失敗はたくさんあるけど、充実している証拠。ここでもがきたいと思う」。単身、ニュージーランドで奮闘する姫野和樹が4月の試合後に明かした決意である。

◆2015日本代表のリーチ マイケル主将と指揮官エディージョーンズ

 相手のタックルをはねのけて突進、倒れても立ち上がって前進する。得意としてきたボールキャリーが、ハイランダーズの最初の数試合はなかなか見られなかった。前への勢いがいつもより乏しい。2人がかりのタックルで押し戻される。

 試合から遠ざかっていたせいか。体調が万全ではないのか。そうした不安をかき消すプレーを見せたのが、スーパーラグビー・アオテアロアの最終戦だった。ハリケーンズを相手に防御ラインを破ってトライにつなげるゲイン。倒れて起きての「ダブルアクション」も見せた。

 序盤戦と様変わりした理由を本人が明かした。「キャリーの時に横に流れ過ぎていた。だから、相手としっかり正対し、強い体の状態で当たることを意識した」。対面の外側で当たるというチームの決めごとに忠実なあまり、持ち味が消えていたようだ。姫野は続けた。「ボールキャリーでここまで前に出られないことは今までになかった。『なんで出られへんのやろう』と自分で考えて、答えに至った」。

 2019年のワールドカップ(W杯)で名を上げたが、さらなる成長を求め、コロナ禍の難しい時期にあえて海を渡った。「もがく」ことでたどり着いた正解。満願成就といったところだろう。

 姫野の苦悩と克服の過程を見て思い出したのが、サッカー元日本代表監督の岡田武史さんの言葉である。2010年のワールドカップ(W杯)で16強入りを果たした原動力をこう語っていた。「日本人は追い込まれて追い込まれた時、すごいエネルギーが出る。私はそれをブラックパワーと呼んでいる」。反骨心や、火事場の馬鹿力と似た存在だろう。

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