日野LO北川俊澄、笑顔のラストゲーム。古巣トヨタに「恩返し」の健闘
「今週、こっそりキックの練習してるの見てたんだ(笑)」
試合後の会見で、日野の共同主将SHオーガスティン・プルは、後半42分のトライのコンバージョンを、LOに任せた理由を明かした。もちろんジョーク。海外には、引退が決まっている選手に最後のコンバージョンを託す習慣がある。それにならったのだ。
日野レッドドルフィンズは、トップリーグ2021プレーオフ2回戦でトヨタ自動車ヴェルブリッツに29-49で敗れ、シーズンの戦いを終えた。2月に不惑を迎えたLO北川俊澄にとっては、小5から始めたラグビーの現役最後の試合ともなった。加入2年目。相手は奇しくも、古巣のトヨタだった。
「トーナメントの中でトヨタと対戦するのは運命的。純粋に嬉しかった。もちろん勝つつもりで臨みました」(北川)
背番号は19。後半11分、5番ディネスバラン・クリシュナンに代わってグラウンドに入ると、スタンドからひときわ大きな拍手が起きた。
いつも通りラインアウトで跳び、サポートに走り、密集で身体を張った。前述のラインアウトモールからのトライも、しっかりキャッチ。後方で赤い塊を押した。自らがトライスコアラーにならなかった幕切れも、この人らしいかもしれない。
内容も、日野が下を向く80分ではなかった。前半4分、WTBチャンス・ペニーの先制トライに始まり、全員が鋭い出足でトヨタに刺さり、執拗に相手のミスを誘った。後半24分には24-28と4点差まで迫る場面もあった。
「結果は残念だが、全員が80分、持っているものを全て出した。胸を張って帰りたい」
日野の戦いきった80分は、敵将のサイモン・クロン ヘッドコーチのコメントからもわかる。
「ひとことで言うと酷い試合だった。今日の反省を次の糧としたい」
北川はトップリーグの始まった2003年度にトヨタに入社。16シーズンを過ごした後、2019年度、系列会社の日野自動車に出向の形で籍を移した。
「16年、一つのチームでプレーした後、新しいチームにいくのは難しかった。ゼロから始めた。温かく迎えてくれた日野の皆さんには感謝しかない」
他に例を見ない体験をそう振り返る。それでも身体を張り、チームの土台となるプレーをすることで、不可欠な存在になっていった。
北川の評価を聞かれた箕内拓郎ヘッドコーチは「本来は1対1の時に話すことですが」と笑いつつ、「自分のすべてを出してしっかり終わってくれた」。プルも「チームにエナジーをくれた選手。偉大な選手の引退はさみしい」と惜しんだ。
「楽しむことが原点でした」(北川)
日本代表キャップ43、どんな試合でも骨を惜しまず働いたLOは、自分のチームにも、古巣にもきっちりと恩返しをして、笑顔でラストゲームを終えた。