「俺たちの城を守れ」。近鉄、後半に離されるも充実の一日を過ごす。
いい雰囲気だった。
私たちのホーム。
私たちのチーム。
ライナーズから、ファンから、そんな空気がわき出ていた。
4月25日に花園ラグビー場でおこなわれたトップリーグ2021のプレーオフトーナメントに近鉄が登場した。トップチャレンジリーグ所属のチームとして、唯一の2回戦進出だ。
パナソニックとの試合は、最終的に7-54と完敗した。しかし、ファンから多くの拍手を浴びた。
前半は7-7。風上に立ったとはいえ格上の相手に対し、ハードに、立派に戦った。
パナソニックには日本代表候補が11人もいる(この日のメンバーには9人で、そのうち6人先発)。リーグ戦でも引き分けが一つあるだけで、無敗の強豪だ。
しかし近鉄は接点で引かなかった。NO8野中翔平が鋭いタックルを見せるなど、防御で前に出た。
16分にはBKが仕掛け、WTBジョシュア・ノーラが先制トライを奪った。
28分にはジャック・コーネルセンにインゴールに入られて同点に追いつかれるも、激しいアタックと粘り強い防御で試合を拮抗させた。
後半は開始4分にキックチャージからふたたびNO8コーネルセンにトライを許す。スクラムの劣勢も響き、じわじわと差を広げられた。
ラスト15分強で4トライを奪われて失点は50点超に。次々と送り出されるパナソニックのインパクトプレーヤーたちに力の差を見せつけられた。
それでも試合後には大きな拍手がたくさん、長く、選手たちに届けられた。
この日の観客は3989人(招待券も含み4500枚の発券)だった。
緊急事態宣言の影響で、有観客による試合開催が可能になったと発表されたのは前日の夕方前。多くのファンが期待感に胸を膨らませてスタジアムに足を向けた。
有水剛志ヘッドコーチ(以下、HC)は、「私たちも昨日のぎりぎりのところまで、有観客でやれるのかアナウンスを待ちました。ファンの前でプレーできることになってモチベーションが高まりました」。
それだけに、後半に大きく引き離された展開を振り返り、「申し訳ない」と話した。
ゲームキャプテンを務めたLOマイケル・ストーバークは、「近鉄のファンは特別。いつも情熱的で、エネルギーを与えてくれる」。CTBシオサイア・フィフィタも「ホームのファンの皆さんの前でプレーできたことに感謝します。今シーズンはきょうで終わりましたが、ファンの前でもっといいプレーができるように練習していきたい」と成長を誓った。
最終的には大差をつけられるも、ライナーズの未来を楽しみに思ったファンは多かっただろう。
前半の奮闘について、有水HCは「自分たちのスタイルを出して勝負に持ち込めた」と振り返った。
ただ、強豪との地力の違いも痛感した。
「トップ8を目指してスタートしたシーズンです。(勝って8強となれるか否かのこの試合は)これまでの強化がどうだったかを問われる試合でした」
トップチームの力をあらためて感じた。ライナーズが次のステージに行くのなら、このレベルに到達しなければならないと体感した。
HCは、風上の前半に思うようにプレーできていただけに、もっと得点を重ね、リードして後半に入りたかった。
「我々が格上に勝つには、ラスト10分までもつれる展開に持ち込み、自分たちのラグビーで逃げ切るか、トライを取り切って逆転するか、と考えていました。後半、先にスコアしたかった」
ストーバーク主将は、前半のディフェンスについて、チームカルチャーが根底にあると話した。
普段から、ゴールラインを背負っての防御時など、厳しい局面のときには「キャッスル!」の声が飛ぶ。「ディフェンド・ザ・キャッスル」の意だ。自分たちの守りたいものを『城』に見立て、体を張って守ろうと意思統一してきた。
この日もホームグラウンドの花園を『城』と考え、大坂城を守った真田幸村のように守り切ろうと誓い合ってピッチに立った。
ストーバーク主将は、後半に大きく差を開かれた反省と未来へ向けての感想も口にした。
「(トップ8という)自分たちの目標を達成できなかったのは残念。前半は情熱をかけて試合を進められたが、セットプレーなど、情熱だけではなく、もっとやっていかないといけない。ただ今後、それぞれの分野(スクラムなどの各ユニットプレーや攻撃、防御等)で厳しい選択をしていけば、将来はトップ8にもいけると思う」と話した。
試合前の高揚感。前半の緊張感。後半はトップチームとの差を思い知らされた。
そして、試合後の穏やかな時間。
ホームタウン、ホームスタジアムっていいな。