家族との約束。躍進NTTドコモの牛原寛章、「頑張っている姿を見せたい」と決意。
チームのどこが変わったか。
「メリハリです」
NTTドコモの牛原寛章は言う。
「グラウンド内では移動の時もジョギングで、常にインテンシティ(強度)の高い状態で練習する。グラウンド外では(選手が)ばらばらにならず楽しむ」
2011年に国内トップリーグへ初昇格して以来、長らく2桁台の順位に甘んじた。下部への降格も味わった。ところが今季は、レギュラーシーズン7戦で4勝3敗と勝ち越す。ホワイトカンファレンスで8チーム中3位となり、4月25日から参戦のプレーオフで8強以上を目指す。
好調を呼んだのはボスの存在か。新ヘッドコーチに就いたのはヨハン・アッカーマン。母国の南アフリカで年間最優秀コーチ賞を3度も獲った50歳だ。昨秋に来日するや、牛原の言う「メリハリ」を涵養(かんよう)させてきた。
始動当初は、練習の合間に歩くだけで罰走を命じる。ふしぎなもので、「いまは罰とかは関係なしに、選手自らが(ジョギングで)動いている感じ」と牛原。2月のシーズン開始以降、開幕3連勝と加速した。
「勝ち続けたことも影響しているかもしれない。ついていけば結果は出ると自信がついたのも大きいです」
牛原が話したのは4月5日。前年度に0-97で大敗した神戸製鋼に29-31と迫った5日前で、ヤマハとの第6節の2日後にあたる。この日の練習では、好機で用いるサインプレーの動作確認を主としながら合間、合間には走り込みを挟む。緊張感を保つ。
もっとも、チームを変えつつあるアッカーマンは「本当は楽しいことをもっとしたいのです」。始動当初に実施した合宿では、大自然の下でのレクリエーションも実施。本来ならその他にもしたかったことはあるが、今回はその代案を用意した。
「ストーリータイム」。食事の前後に選手、スタッフが1人ずつ前に出て、それぞれの競技歴や心構えを話す時間を設けた。指揮官は笑う。
「本当ならもっと飲み会をしたいのですが、その機会は限られる。そんななかでもバックグラウンドを知り、理解を深めようと思ったんです」
2013年入部で2017年から日本代表のヴィンピー・ファンデルヴァルトが感銘を受けたのは、その「ストーリータイム」での牛原の話だった。
牛原は日野との今季第5節で、長距離を駆け戻って相手のキックをセービング。26-25と接戦を制する過程で、ひとつのターニングポイントを作っている。スクラム最前列のHOで身を挺しながら、球が動き出せばタフに動く。
ファンデルヴァルトは牛原の「ストーリータイム」を通し、この人が奮闘できるわけを察することとなる。こう総括した。
「その選手の生い立ち、チームへの思いを知ることで、お互いの関係性は高まる。非常に良かった――」
牛原は3人兄弟の三男。幼い頃は祖父母の苺農家で、販売用の段ボール箱を作った。折った枚数で小遣いの額が決まっていたから、真剣だった。
6歳、3歳上の長男、次男と柔道を習った。成長とともに他のスポーツがしたくなり、小学5年から中学卒業までは福岡のりんどうヤングラガーズへ通った。父の博樹さんに勧められた。
週末のラグビーの練習や試合に父が観に来ることは、なかった。2人の兄の柔道の日程と重なっており、時間の都合がつかなかった。それでも当の本人は競技にのめり込み、九州屈指の強豪校、佐賀工高入りを決めるのだが、その折、望まぬ転機に直面する。
父を事故で失った。
高校進学はあきらめるつもりだった。しかし、ここで背中を押してくれたのが母の和子さんだった。
ラグビーをしている姿を見せたことのない父のために、ラグビーを続けることを応援してくれた母のために。
これがいまに至るまでの牛原のモチベーションで、「ストーリータイム」で話したことだった。
高校卒業後は明大を経てNTTドコモ入りの本人は、「一瞬懸命」をモットーにする。一生懸命という四字熟語を変化させたフレーズに、その場、その場で全力を尽くす意を込める。「一瞬、一瞬を大事」にした結果、ラグビーで進路を切り開いたと捉える。
いまでは妻の恵理子さん、長女の日向子ちゃん、長男の寛吉くんの存在も原動力としている。「一瞬懸命」の延長線上で、こう強く思う相手を2人から5人に増やした。
「頑張っている姿を見せたい」
4月25日、愛知・パロマ瑞穂ラグビー場でホンダとぶつかる。接戦の多かったレギュラーシーズンのさなか、こう宣言していた。
「いままで勝ち続けることがなく、負けてしまったら一気に落ちるチームだった。まずは勝ちにこだわっていきたい。チーム目標のベスト8には、必ず行きたい」
この先のノックアウトステージでも、「一瞬」に賭ける。
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