国内 2021.04.23

得てきた財産を活かした。東芝・伊藤鐘平、実質1年目でプレーオフメンバー入り。

[ 向 風見也 ]
得てきた財産を活かした。東芝・伊藤鐘平、実質1年目でプレーオフメンバー入り。
4月11日の宗像サニックス戦でもLOで先発した東芝の伊藤鐘平(撮影:Hiroaki.UENO)


 キャリアが活きた。

 伊藤鐘平は2020年度から、東芝ラグビー部にいる。実質的に初めてのシーズンとなった2021年の国内トップリーグでは、第2節を控えた2月の4週目に一定の責任を負う。

 仮想の対戦チーム役を務める、通称「K9」でリーダーを任されたのだ。特に、空中戦のラインアウトで中心的な立場となる。

「クボタのラインアウトからのアタックを(自身以外の)メンバー外の人たちに落とし込んで、スタメン組に見せるという感じです。クオリティを保ってやらないと、本番でスティールできない(出場する選手が相手からボールを奪えない)。ここは僕の仕事やと思って、しっかりコミュニケーションを取ってやりました」

 若手にあって重責を託されたわけを、こう分析する。

「練習中に気付いたことを、ハドル(円陣)を組んだ時に言うようにはしていて。それと(もともと)敵チームのラインアウトの分析とかは任されているので、それが評価されたのかなと」

 少年時代は地元の神戸中央少年ラグビークラブ、神戸ジュニアラグビースクールで楕円球を追ってきた伊藤は、札幌山の手高、京産大で主将を歴任した。学生時代に先頭に立ってきた経験を、自らの血肉とする。

「皆の前で発言することには少なからず慣れている。あとは、僕が主将だった時、主将じゃない人に発言されたら楽やなぁと思っていて。そっちの方がチームはうまく回るんじゃないかとも。いまは、それを意識していますね」

 2月27日、東京・秩父宮ラグビー場。クボタとの第2節は7-39で落とすも、東芝のFW陣がクボタの大型選手によるラインアウトへ圧力をかけていた。その様子に安堵した伊藤は、続く3月6日、トップリーグデビューを飾る。

 岩手・釜石鵜住居復興スタジアムでの第3節で、本職のLOとして先発フル出場。身長190センチ、体重105キロのサイズで身体を張り、三菱重工相模原に58-7で勝った。

 この午後ゲーム主将を務めたのはリーチ マイケル。ワールドカップ2大会連続で日本代表の主将を務めたリーチは、伊藤にとっては同じ高校の先輩でもある。

 リーチが高校の佐藤幹夫監督に校舎近くの「びっくりドンキー」へ連れられ、大量のハンバーグを平らげていたことはよく報じられる。

 伊藤も一度、同じ店でごちそうになったことがあるようだ。「たまたまなんですが、2~3名くらいで」。佐藤監督から「マイケルは3枚くらい食べてたぞー」と、たくさん食べるよう発破をかけられた。

「重工戦では初めてマイケルさんと試合ができてすごく嬉しかったです。夢、叶ったなと」

 こう語る23歳は結局、レギュラーシーズンで計2度の出番を得る。それは、肉体改造の成果でもあった。

 京産大では大西健前監督のもと猛練習を重ねるも、東芝に入るやフィジカリティ強化の必要性を痛感。社会情勢が変わる前に合流できたチームでの練習中、大型PRの知念雄とぶつかった際の衝撃が忘れられない。

「タックルに入られて…。めっちゃ、重かった印象があります。たぶん、知念さんは覚えていないと思いますが」

 コーチ陣の勧めもあり、ウェイトトレーニングに注力した。同じLOで日本代表経験者の小瀧尚弘とともに、チームに割り振られた以外の時間にもジムへ通った。計画的に休息もとり、今季開幕前までに進化を実感できた。

「体重は(入社前より)5キロくらい増えて、ベンチプレスとスクワット(で挙げられる最大重量)は1年間で25キロ以上ずつは更新しました。ベンチプレスのマックスは130キロくらいから155キロくらいに。スクワットも以前は80キロくらいでしたが、いまは一発なら200キロまで。まだまだ体重は増やさないといけませんが、自分でもびっくりしていて…」

 兄の鐘史さんは日本代表のLOとして2015年のワールドカップ・イングランド大会などで活躍し、2018年の引退後は母校である京産大で2020年度まで監督などを務める。弟の鐘平も大学で主将を張る2019年までの2シーズン、コーチだった兄に指導された。

「大西先生には根性、じゃないですけど、技術うんぬんよりもハートの強さが大事と教わってきました。お兄ちゃんにはポジションも同じなのもあって、ラインアウトのスキル、フィールドでの動きと細かいことを学んできました。いまは、自分の与えられた役割を全うする。(東芝のトッド・ブラックアダー)ヘッドコーチからも、それぞれが役割を遂行すると自然とチームもよくなると言われています。僕の持ち味はワークレートとひたむきなプレー。そういう地味なところと、チームが勝つところを見てもらいたいです」
 
 得てきた財産を存在感に変えてきた伊藤は4月24日、リコーとのプレーオフ2回戦でベンチ入り。愛知・パロマ瑞穂ラグビー場で出場機会を待つ。


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