コラム 2021.03.25
【コラム】「大丈夫」は危ない。退く勇気も仲間のため。

【コラム】「大丈夫」は危ない。退く勇気も仲間のため。

[ 谷口 誠 ]
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 正常性バイアスが生死を分けたのが、10年前の東日本大震災だった。津波の常襲地帯で迅速に避難する人が多かった一方、そうでない地域では逃げ遅れて死亡率が高まる傾向があった。

 その反対に、事前の準備で正常性バイアスから逃れた例もある。2019年にワールドカップの舞台となった岩手県釜石市。子供への防災教育ではあるメッセージが伝えられていた。「君が逃げると分かっていれば、お父さんやお母さんも君を迎えるために学校に来る必要がなくなり、逃げてくれる。だから君も逃げよう」。避難は自分の命だけでなく、愛する人の命を守るため。試合会場の鵜住居地区にあった小中学校の生徒は率先して逃げ、犠牲者は一人も出なかった。「釜石の奇跡」と呼ばれる出来事である。

 重傷を押して試合に出ることがチームへの責任を果たすことではない。むしろケガを正直に話し、勇気を出して休むことが仲間への信頼の証し。

 仲間も君にそうすることを望んでいる。こう考える選手が増えれば、脳震盪による不幸な出来事を減らす一助になるのではないか。

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