「弟とまた、戦いたい」。眞野拓也主将[丸和運輸機関]の思い。
本当なら走り出す日だった。
1月31日、埼玉県吉川市の河川敷グラウンドに大きな輪ができていた。その中心で、内山将文ヘッドコーチが言った。
「今日は、シーズン初戦のはずだったよな。悔しいな」
50人近い選手たちの誰もが頷いた。
丸和運輸機関AZ-MOMOTARO’Sの練習が午前10時から始まった。トップイーストリーグCに所属している。
冒頭のように、コロナ禍が収束していたら、この日から2020年度シーズンが始まるはずだった。
しかし、1月15日にリーグ戦全体の中止が決まる。開幕に向けて準備を進めていた選手たちは落胆した。
眞野拓也主将(FL)が、部員たちを代表する。「他のチームも残念に思っているのは同じだと思いますが」と前置きして言った。
「特に僕らは、このシーズンに懸けていましたから本当に試合をしたかった。昨年は、昇格のかかった順位決定戦に6点差で負けて(対富士ゼロックス戦)しまいました。だから今年こそ、と思っていました」
強化環境を整えてくれる会社の期待に応えよう。眞野主将はそう呼びかけ、シーズン開幕へ向け準備を重ねてきた。
自身は京産大から入社し、4年目を迎えている。2年目から主将に就き、リーダーとして3年目を迎えている。
入社当時は週末だけの練習で、土曜日に仕事が入っている選手も少なくなかった。しかし現在は、勤務時間を少し短くできる水曜日も練習をおこなえるようになった。
部員数は47人。春になれば30人前後増える予定で、新たに人工芝の練習グラウンドを作る計画もある。
「それだけのサポートに、結果を残して感謝の気持ちを表したかった」
眞野主将は京産大でも主将を務めていた。トップレベルでのプレーも頭にあった。しかし、大西健監督に「自分の力でチームを強くしてはどうだ」と勧められ、現在歩んでいる道を選んだ。
弟・泰地は東海大仰星で日本一となり、東海大でも活躍。現在は東芝に所属する。「いつも弟のことを聞かれるので、その話ならいくらでもできます」と笑う。
自身が大学4年時の大学選手権では東海大と対戦し(12-71と敗れる)、兄弟で同じピッチに立った。
「両親が観戦に来てくれた。親孝行ができたな、と思いました」
いつも感謝の気持ちを持って行動する人だ。「ストイックで、実力のある弟に、人柄では負けないようにしないと」とおどける。
シーズンがなくなっても練習を続けているのは、来シーズンの上昇を間違いないものにしたいからだ。
長くNTTコムでプレーしていた元オールブラックス、ロス アイザックも加わり、一緒にシーズンインへ向けて準備を進めていた。コーチングもしてくれていたから、その時間を大事にしたい。
「アイザックの存在はすごく刺激になっています。特にFW、ラインアウトへ与える影響力はすごく大きい。練習を続ければ、彼から得られるものも増えると思うので」
そのお手本は、この日も河川敷で泥だらけになって練習に参加し、アドバイスを送っていた。平均年齢26歳前後の若いチームにとって、ともに過ごす時間は宝物だ。
チームは将来のトップ(レベルの)リーグ入りを目指している。
もちろん、現状ではまだまだ力が足りないと自覚している。強豪と比べるとフィジカル面で劣る。大事なシーンでのミスも多い。仕事との両立の中でその差を詰めていくのは簡単でないことも分かっている。
しかし、会社は部員の勤務環境にも気を配ってくれている。その中で、上を見続けて前進する覚悟はある。
「いつかまた、弟と試合ができたらいいですね。その舞台がトップリーグだったら最高です」
河川敷のグラウンドの横には江戸川があった。その流れは大海に続いている。
いつか、自分たちも。