【ラグリパWest】ラグビー談義ができる角打ち。木下裕義酒店 [大阪市中央区]
「あん時はねえ、前半は15−3ですわ。京産からスクラムトライを2本獲られたもんやから、明治は戦い方を変えてきよった。キックと吉田君にボールを持たす作戦ですわ」
30年前でも昨日のことのように覚えてる。木下忠彦はんの丸いおめめは輝くで。ラグビー記者ちゃう。生業は酒屋の大将や。
大学選手権で三木兄弟の対決が話題になったわなあ。慶應の亮弥と京産の皓正。試合は47−14で兄貴が貫録勝ちや。2人のオヤジ、康司(やすし)はんに話が及んだ。
大将は立て板に水のごとく、オヤジが京産4年の選手権を解説する。27回大会(1990年度)の準決勝は明治が29−15で逆転勝利や。紫紺のWTBはヨシヒトはん。キャップ30で日本の翼になったな。
「大将はラグビーおたくやねんわ」
常連さんのひとりがそう説明する。いや、その上を行ってんやないかな。
年末年始には店内のテレビが1増の3台になり、3つのグラウンドで繰り広げられる高校大会を網羅する。
大将のお店「木下裕義酒店」は大阪の中心部を北から南に貫く通りのひとつ、松屋町筋にある。読みは「まっちゃまち」。昔は人形や結納品、今はおもちゃで有名や。向かいには展示場の「マイドームおおさか」がある。
大将とこはいわゆる「角打ち」(かくうち)。昼は酒屋をやりながら、夜は乾きもんや缶詰など簡単な肴(あて)で飲ます。店で酒を買った客がその場で飲む、という構図やね。
瓶ビールや酎ハイは安い。缶ひとつとかっぱえびせんで400円ほど。
「うちみたいなとこは売れてるもんに支持が集まります」
とは言うものの日本酒は池田の呉春を出す。
店はいつも上方のあきんど方を中心に混んでいる。椅子は生ビールの空き樽を改良、店内の年季の入った黒光りもまた集客になる。
開業は1956年(昭和31)。店の名前になってる父・裕義はんと母・かよ子はんが始めた。大将は二代目やな。
「わしがこの店に最初に来たんは44歳の時やで。もう70歳になってしもたわ」
常連さんのつぶやきが聞こえる。
大将、お年は?
「平尾、大八木世代ですな。3連覇の時には国立に応援に行きましたで」
ミスターラグビーやアッシーはんとは同窓。同志社は2人を中心に19回目の大学選手権(1982年度)から3年、覇権を守った。