県大会1回戦がプレゼントに変わる。「青春の宝」のメッセージ性。
激戦が終わった。日本ラグビー選手会でNECの川村慎会長が言った。
「お世辞じゃなく、本当に勉強になるプレーがあった。皆、高校時代の僕よりもずっといいプレーをしています。自信を持ってください」
高校生の試合映像にプロのアナウンサーやトップ選手らが実況、解説をつける試み、「青春の宝」の上映会が、8月25日にあった。川村と元日本代表主将の廣瀬俊朗が、佐藤哲也アナウンサーとともに昨年の全国大会山口県予選1回戦へ視線を送る。
高川学園高が宇部高を24-7で制した一戦は、鋭いタックルとオフロードパスの応酬。特に接点周辺での軽快なつなぎには、解説者の2人も驚いていた。
川村 「バックフリップ! PRですよね?」
廣瀬 「これ、1回戦ですよね? うまいですね、みんな」
川村 「細かいスキルが、本当にすごい」
この「青春の宝」プロジェクトを遂行するのは、一般社団法人「スポーツを止めるな」。新型コロナウイルス禍で各種大会が中止となるなか、高校生などにラグビー、バスケットのプレー動画の共有を促す運動がきっかけとなり設立された。元ラグビー日本代表の野澤武史が代表理事を務め、「青春の宝」では過去に元ラグビー日本代表でヤマハの五郎丸歩、バスケットボール日本代表で千葉の富樫勇樹が「放送席」についている。
ラグビーでは2度目の試みとなる今回、このゲームを題材に挙げたのは敗れた宇部高側。岩本隆治監督は「卒業した3年生といまの3年生には共通した悔しさがあるということで、この(昨年度の)試合を選ばせてもらいました」と説明し、こう述べた。
「思い起こせば今年の4月9日。新型コロナの影響を受けまして、グラウンドではなく多目的教室で、『3年生の15人制の大会は(夏まで)おこなわれない』と伝え、皆で涙した日をいまでも思い起こしています。その彼らにこんなにすごいプレゼントをしていただいて、ありがとうございました。最初はリラックスして観ようと思っていたのですが、当時を思い出すと胸が熱くなって。素晴らしい生徒たちに囲まれて幸せだと思いました」
川村は「僕らの解説がついていたとはいえ、負けた試合を観るのはちょっときつかったかな」と総括。さらに「伝えたいことが3つあって…」と、総じてこんなメッセージを送った。
「ひとつめは、人生において何かを長期間続けることは価値のあることだということ。いろんな誘惑もあるし、それ(に流されること)も悪いことではないけど、そんななかでも、苦しくても、成し遂げたいことをずっと続けていく…。それが(自分への)自信や誇りに変わっていく。ふたつめは、そのなかでもスポーツに取り組む意味。自分の信念に沿った直感的行動を学べることです。みっつめは、いましかできないことの価値。何かを始めるのに時期はない。でも、限界に挑みやすい時期というのは、身体的にもライフステージ的にも存在します。何かに挑みやすいのは皆さんのように若く、いい意味で無鉄砲な時期。ぜひ、そういう(挑戦しやすい)時期が人生にはあると意識してやっていくと、人生で後悔しない選択ができる」
県立の進学校でもある宇部高ではラグビー部員が夏までに引退する傾向が強かったようだが、今秋の全国大会予選に向け「(3年生の)全員が、何らかの形でグラウンドに立つ意思表明をしています」と岩本監督。ラグビーで感じた悔しさを、ラグビーで晴らしたい。