【コラム】スガダイラは生きている。
菅平高原の玄関(リビング?)とも言える通称「T字路」から左に曲がり深くまで進んだところにある9番グラウンド。右のポールには「KOKUGAKUIN」の紺色カバーがついていた。國學院栃木が根城にしたこのグラウンド、ここだけがほぼ連日、午前午後とゲームが行われていたのだ。
夏のこの地をよく知る皆さんには信じられないかもしれないが、今年の菅平は本当に静かだ。いつもならあちこちから聞こえてくる笛の音も、スパイクをかちゃかちゃいわせて宿まで走るおデブちゃんも、選手を護送するように走り回る各宿のバスも、ほとんど姿がない。なんとなく出かけても、「どこで何時からどこ対どこ」の情報がなければ試合は見られない。ただ、9番グラウンドだけが連日、賑やかだった。
冒頭の軽口は、國學院栃木の吉岡肇監督の、実は真摯な言葉である。創部監督は就任33年目のベテラン。
「うちも、当初予定していた対戦相手が突然来られなくなったり、試合が出来なくなったりが続いたんだ。だけど、どうしてかなくなるそばから、違うチームの連絡が入って助かったよ」
國學院栃木はここ数年、着実にそして速度を上げて成長する強豪だ。今年は関東新人大会で準優勝。昨年花園優勝の桐蔭学園(神奈川)には0-48と水をあけられたが、評判は高い。このスガダイラシリーズでも大阪桐蔭、大阪朝高、御所実、石見智翠館、天理らと好勝負、多くで勝利を挙げて注目されている。
しかし、吉岡先生の声が弾んでいるのは戦績に対してではない。この場で、またライバルたちと思い切りあたり合い、走り合うことができたことへの充足感からだ。ある日の試合で、試合中にもかかわらず吉岡先生が声を荒げた場面があった。教え子の一人が、レフリーの判定に不服そうな(そう見える)仕草を見せたところから、タッチライン側、インゴールを歩き回って選手たちに訴え続けた。