国内 2020.08.22

よく寝て、考えて食べよう。代表戦士育てた奥野純平氏、金の卵への伝言。

[ 向 風見也 ]
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よく寝て、考えて食べよう。代表戦士育てた奥野純平氏、金の卵への伝言。
Honda HEAT(ホンダヒート)のヘッドS&Cコーチである奥野純平氏


 ラグビー日本代表としてワールドカップ日本大会に出たレメキ ロマノ ラヴァは以前、こう語っていた。

「今年はJPさんが入って、皆が強くなっている」

 話題に挙がった「JPさん」とは、奥野純平氏の愛称だ。宗像サニックスへ移ったレメキは、前所属先のホンダでS&Cコーチをする「JPさん」に全幅の信頼を置いていた。

 奥野氏が着任した2017年はリハビリの真っただ中。前年に左ひざ前十字靭帯を断裂しており、復帰後のパフォーマンス向上を目指していた。

 奥野氏はレメキに「『これだけパワーがつけば、不安はないよ』という道を作った(示した)」。そのプランを遂行したレメキは、筋肉を軸に1~2キロの増量に成功した。以下、復帰直後の声である。

「JPさんが来てから、(身体の)バランスがいい。ベンチプレスだけじゃなく、ダンベルを使ったり、片足(の踏ん張りなど)にフォーカスしたり…。で、去年(2016年)よりも一瞬のパワーがついた。去年よりもでかくなったけど、フィットネスはキープ。…最強」

 ワシントン州立大出身。全米S&C協会の認定S&Cスペシャリストなどの資格を持つ。そんな奥野氏が画面に映ったのは8月18日。2021年の三重とこわか国体への出場が期待される、同県の高校ラグビーマンにオンラインで講義をした。

「1日は24時間。ラグビーをしている時間より、生活している時間のほうが長い。練習、筋力トレーニング、ストレッチは平均して4時間。合宿などで2部練習があったとしても、この(生活時間のほうが長い)構図が逆転することはない。ですので、まずは生活面にスポットライトを当てます」

 こう切り出してから約40分、特別な機材や設備がなくてもできる自己鍛錬の方法を伝える。引用文献やデータを示しながら、さまざまな見識を紹介する。

「(今回の他にも)いろいろとお話しする機会をもらいますが、(いまの中高生は)睡眠時間が少ないと感じます。(だが)8時間睡眠の人よりも6時間睡眠の人の方が2倍、けがをするリスクが上がるという研究結果があります。免疫力も下がる。徹夜で勉強したり、夜更かししたりすると、風邪をひきやすくなってしまうかもしれない」

「また睡眠不足になると、食べ過ぎをストップさせるホルモン(の活力)が下がり、『もっと食べろ』というホルモンが増える。そのため暴飲暴食で太りがちになったり、代謝が落ちたりと、良くない方向へ進むとわかっています」

「寝る前に炭水化物を食べ過ぎると、(筋肉のもととなる)たんぱく質の吸収が妨げられます。それに、血糖値が下がらない。ただ、(骨や筋肉を育てる)成長ホルモンの分泌は、血糖値が下がって初めてスタートする。寝る前に食べ過ぎて寝苦しくなる、血糖値が下がらない、下がった時は夜中過ぎ…となると、(入眠直後に訪れ、成長ホルモンの分泌を促す)深い眠りのタイミングを逸して、成長ホルモンの分泌を逃して…結局、パフォーマンスが出せない、思ったより身体が回復しない…となります。食事は、食べるタイミングを間違うと苦しい結果を生む。いっぱい食べることが必要ならば、5~7食に分けることも大事です」

 寝る、食べるという誰でもする行為を見直せば、選手としてより成長できるのではないか。そう熱弁をふるい、こうも言い添えるのだった。

「トップの選手ほど基礎的なことを徹底的にやっている。皆が休んでいる時も自主練している。ひとつのことを、他の人がやっていないことを、コツコツやっている。ここはどのスポーツであっても徹底している。それはトップ選手になったから急にできるようになったわけではなく、何かのきっかけがあって、(地道な努力が)必要だと思ったからコツコツやっている。皆にはこれをやったらパフォーマンスが上がる、けがをするという引き出しは少ないと思うので、まずはこの機会に、知らないことがあれば知ってください。そして、それを持ち帰って、明日から何ができるかを考え、継続してください」

 事実、レメキ、具智元といったホンダ発の日本代表選手は「オフの日もトレーニングをしていたり、リカバリーの日にも時間をかけて徹底的にリカバリーをする時間を取っていたり。コツコツ、継続しています」とのことだ。

「こちらが(動くのを)止めなくちゃいけない時もあります。表舞台の裏には大きな努力があるのだと、一緒のチームにいて実感します。2019年のワールドカップではトップ選手の華やかさ、かっこよさが印象に残ったと思います。ただ、それは努力、経験が凝縮された一部分。彼らは、すごく地味なことをやっているのだと捉えて欲しいです。さらに、同じこと(習慣)を繰り返すことで調子がいい、悪いも理解できるようになるはずです。その財産は、ラグビーを継続する、しないに関わらず、生きるのにも役立ちます」

 今後も、一般的に出回る「私生活がグラウンドに表れる」という訓示を具体化。その延長で、健やかに暮らすヒントも示す。

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