【コラム】遅すぎるなんて無いさ。
面白いのは、このCTB村松一馬(中学時代はバスケ部)が、元々はFWだったことだ。村松の大会アンケート「目標とする選手」欄には、世界最高の3列、デヴィッド・ポーコックの名がある。同じくCTBの市場学翔(同サッカー部)の腿には、村松と同じく、ラインアウト用のテープが巻かれている。適宜ポジション変更も挟みながら、「その時、できるやつが、効果的なことをやる」という柔軟な発想が、チームのベースにある。
主将のFL西岡柚弥斗(同サッカー部)は、1回戦を振り返り、「しんどいところで、サポートしあえたのはよかった」と静かに勝利を噛み締めていた。会心の時間帯は、1回戦で見せた勝負どころの3連続トライだろう。前半のビハインドにも慌てず、相手の強みを削ぎながら、連続得点。勝負のラスト10分の時間帯には精神的に優位に立っていた。特に後半1トライを返して22-21となった時間帯の、両チームのやり合いには見応えがあった。FWを押し立て強い腰を惜しみなく相手に当てていく郡山北工に、若狭東もひるまず、むしろFWで打ち返しにいく。特色の違う二つのチームが、いっとき一つになったようだった。
西岡主将はきっと実直な人柄に違いないと、観る人に思わせるような、愚直なサポートとタックルの繰り返しで勝利を下支えした。球技としてのラグビーを見つめてきたからこそ、逃げてはならない局面だと感じたのだろう。若狭東もこの時間帯は局地戦に没頭した。BKの脅威をちらつかせたHB団も殊勲だった。
敗れた郡山北工は、望月誠志朗主将(同柔道部)も、小野泰宏監督(数学)も試合後のコメントが潔かった。
監督いわく、結果は仕方がないです。うちの生徒たちの今のベストです。若狭東は、みんな元気があって自分たちの良いところを出していたと思うーー。
12月28日、舞台はまだ大会2日目の1回戦だが、22-21の時間帯は両校にとって一つの到達点と言えるのではないか。2年と9か月の結晶。ラグビーをまだしていなかったそれぞれの時間に得たものも注ぎ込んで、もし一つのチームになれたら、舞台はどこであれ、あんな時間を過ごせるのかもしれない。
2020年、今、持ち時間の計算がたてづらくなっている3年生たちには、苦労の多い年になった。下級生にとっては、先輩たちと違って、部員獲得作戦を年間を通じて続けなければならない状況だろう。
脈のありそうなクラスメイトにはぜひあなたの言葉で伝えてほしい。
高校ラグビーを始めるのに「遅すぎる」なんてないんだと。日本代表でこれまで一番たくさんの試合に出た選手は、大学生で初めてこのボールを手にしたんだよと。全国大会の1回戦では「初心者」チーム同士がものすごくいい試合をしちゃうんだと。ラグビーは、いろんな人が集まって、自分たちだけの結晶を作れるスポーツなんだと。
もちろん伝える工夫は必要だ。ウイルス対策で、おそらく学校内の制限も多く難儀な時だ。ただ、この状況下で書き換えられた勧誘マニュアルはたぶん無敵じゃないか。勧誘自体が素敵に変わっていく部はきっと、ラグビーチームとしても何かの階段を上がっている。
(まだつづく)