【コラム】遅すぎるなんて無いさ。
2019年の暮れ、第99回全国高校大会の1回戦で、郡山北工に36-21で逆転勝ちした若狭東は、翌朝、大阪市・興国高校のグラウンドでコンディションを整えていた。
彼らの持ち時間は、2年半だ。ラグビーを始め、3年生になって決勝に勝ち花園へと道が開けば2年と9か月までのびる。卒業すると多くの生徒は就職し地元地域の即戦力となり、トップレベルでプレーを続ける生徒は少ない。郡山北工が「コンタクト」にポイントを置いて指導する同じ時間を、若狭東は「ゲーム性」に着目した育成強化に費やした。勝ち負けを超えて、両校の指揮官は互いに刺激を受けているように見えた。
若狭東の朽木雅文監督(保健体育)は、自身も高校からの競技者。花園、日体大で活躍した名手で、指導者としても全国に名が通る存在だ。故郷の公立高校で長く指導し見つめているのは、選手たちと過ごす2年半、プラス3か月の時間だ。若狭東の過去最高戦績は全国3回戦進出。2回戦はそれまでに8回経験している(99回大会で9回に)。
「面白さは、ゲーム性、球技性かなと思うんです」
朽木監督の指導の特徴でもある。
「あの大会のフォーマットで、しかも高校からの子が勝とうと思ったら、スクラムとモールを鍛えるのが王道ですよね。根気がいる。でも、やってる方も教える方も、正直、面白くはないんですよ。ははは」
朽木監督らしいさりげない言い方ながら、選手が、どうしたら自分から動くかを突き詰めた結論だ。
「近年はスクラムからのアタックが、サインプレーの品評会みたいになりがち。そうでなくて、ラグビーには生身の相手がいる。そこが面白い。サインはあくまで全体の基本方針で、実際の現象にどう対応するかが勝負ですよね。人だから互いの心理や、駆け引きがある。そこでは、サインより個人の判断が優先されていい」
「結局は、何を削って、何に焦点を当てるか。福井は体の大きな子がそろう土地でもないし、最終的には、こじ開けるプレーでは勝てない。相手をちょっとずつでもずらして、ボールを動かして、クイックボールでまたスペースを突く。そういう球技性を出していった方が、上のレベルのチームに近づけるんじゃないか」
若狭東の象徴は、ラインアウトでFWとBKが一部入れ替わる構成だ。
CTB二人がラインアウトに加わり、空中でボールをつかむ。代わりにFL、NO8はBKに混じって突破役を務める。部員28人の小さな所帯だ。ある日ある時、苦肉の策からBKがラインアウトに入り、「…お前が飛んだほうが、マイボール安定するんじゃ?」となった次第。