ラグマガ推薦!もう一度見たいW杯名勝負<前編> 「現在のジャパンの礎となった2試合」
2019年ラグビーワールドカップ日本大会。ジャパンの大躍進に日本中が空前絶後の歓喜に沸いた。多くの人がラグビーに関心を持ったことだろう。せっかく盛り上がったラグビー熱がコロナ禍で縮小気味のいま、その熱を一過性のものにしたくはない。現在、ラグビーワールドカップの過去9大会の名勝負を放送しているWOWOWとのコラボで、ラグマガ編集部が多くのラグビーファンに「もう一度見てほしい試合」を振り返る企画の前編。まず、ジャパンの大きな転機となった「1991年ジンバブエ戦」「2003年フランス戦」を推す。
RWC1991 ジンバブエ戦
「ジャパンの歴史的初勝利」
当時の海外メディアの中には、日本代表の大勝を「ドミネート」と表現をしたところもあった。
52-8。特に後半は圧倒だった。
1991年10月14日、イギリス・北アイルランドのベルファスト。日本代表はジンバブエから9トライを奪って大勝し、ワールドカップ出場2大会目、通算6試合目にして同大会での史上初勝利を手にした。
9-47と敗れるも、スコットランド相手にスコア以上の勝負を展開し、アイルランドから3トライを奪って16-32。強豪国相手に健闘したチームは、同大会でのラストゲームで当時のチームの完成形を示した。
宿澤広朗監督が戦いを終えた後に口にした「僕は日本の戦い方はこれでいいと思う。これにプラスして強くしていけばいい。パワー不足だからといって強い選手ばかり集めてもだめ。いまの集団の中にバワーを植え付けていく考え方をしないと」の言葉は、日本ラグビーが進むべき道を描いていた。
当時の宿澤監督は、前年に単身でジンバブエに乗り込み、アフリカ予選を視察。分析を進めた。
ワールドカップイヤーの3月から4月には、日本B代表を現地に送り込んだ。
指揮官は、第1回ワールドカップに続いて連続出場した相手と戦う準備を完璧にこなしていた。
ワールドカップ初勝利とは言っても、相手が相手。そう思う人こそ、30年前のこの一戦を見るがいい。
FB細川隆弘の先制PG後(前半4分)、前半20分に生まれたSH堀越正巳のトライはスクラムを押し切ってサイドを走った。その10分後には左WTB吉田義人もトライを挙げた。相手ゴール前スクラムで今度は押さず、ダイレクトフッキングからお家芸の『左ハチキュー(8→9)』だ。
ボールはNo.8シナリ・ラトゥからSH堀越に渡り、吉田は外に開きながら堀越のパスを受ける。そのとき吉田をマークしていた背番号14、ウィリアム・シュルツは、すでに振り切られていた。
もうひとつPGを追加した日本代表は16-4とリードして前半を終える。点差を見ても察しがつくように、ここまでの赤白のジャージにはミスも少なくなかった。ジンバブエにもパワーがあった。
文字通り一方的に試合を進めたのは後半10分にWTB増保輝則がトライを奪ってからだ。このあたりから、ジンバブエはサクラの戦士たちのスピードと運動量について来られなくなる。
以後、WTB吉田の切れ味鋭いステップからのトライあり。つないで、蹴って、ジンバブエをかき乱す。後半だけで7トライ。
52得点、9トライは両方とも、この大会の1試合最多記録だった。
戦いを終えて語った平尾誠二主将の言葉が、チームの到達点を表していた。
「今日この1勝は、自分にとっても、日本ラグビーにとっても大きいものでした。(大会を通して)自信を得ました。やればできる。我々は強い。あわよくば(強豪国にも)勝てるんじゃないか、というゲームができるチームになった。着実に力をつけ、彼らに手が届きそうなところまでいけた」
宿澤監督も、「日本代表のプライドと責任を高めてくれた。これだけ激しい試合を(3試合)してケガ人がゼロ。最後まで26人全員が戦える状態でした。フィットネスを高めようと言って、それをやり遂げた証拠。勝とうとする意欲、ナショナルチームの選手としてのプライドと自覚が高まった」と選手たちを愛でた。
2015年大会で南アフリカ代表を破るまで、日本代表のワールドカップでの唯一の勝利となったこの試合。SH堀越の瞬間的球さばき、WTB吉田のランなど、各選手の個人技の高さとコンビネーションを凝視してほしい。
試合前に演奏されるジンバブエの国歌にも耳を傾けて。現在南アフリカのナショナルアンセムとして歌われる「神よ、アフリカに祝福を」を吹奏楽団が演奏する。
解放運動を象徴する歌であり、当時、複数のアフリカ諸国で国歌として歌われていた。時代背景も感じ取ることができるシーンだ。
この大会で浮かびあがった日本ラグビーの進むべき道を歩めず、1995年大会、1999年大会と世界に存在を示すことができなかった日本代表が、次に世界の目を集めたのは2003年大会だったか。
ブレイブ・ブロッサムズ。
日本代表は同大会から、そう呼ばれるようになった。