海外 2020.06.12
退路を断って移籍。小倉順平は世界を広げた。

退路を断って移籍。小倉順平は世界を広げた。

[ 向 風見也 ]
オンライン取材に応じてくれた小倉順平

 新たな出会いを経験したからか、はたまたいくつものゲームを経験してきたからか、司令塔としてのスタンスには変化が生じた。果敢な仕掛けで防御ラインを破るのが小倉の真骨頂だったが、本人はいま、「ミスを少なく、やることが統一されている選手(を目指す)」。持ち味を発揮して周りを救うこと以上に、安定感をつけて周りの信頼を勝ち取ることを最優先課題とする。

「まず練習中に軽くミスをしない。練習時間が長くなった時に軽くミスするケースもあるんですけど、それでも、練習からミスしないようにするのが大事です。練習では(ミスをしても)ごめんって言えば済んじゃうのですが、それがなくなるように」
 
 スーパーラグビーが新型コロナウイルス感染症の影響で止まったのは、海外遠征中の3月14日のことだった。「とうとう、来ちゃったか」。かねてホームゲームの会場変更を強いられており、小倉も「次に日本に帰る時はスーパーラグビーが中止になる時だろう」と心の準備はしていた。サンウルブズは多国籍軍とあって、選手たちはそれぞれの母国などへ散った。

 大好きなラグビーができなくなってからも学びがあったのは、不幸中の幸いだったろう。4月上旬からの約2か月間、チームは毎週土曜の日本時間15時からオンライン上で合同トレーニングを実施。その様子はファンにも公開した。

「サンウルブズ エナジーチャレンジ」という名のこのイベントで、トレーニングの進行を務めたのが都内在住の小倉だった。

 元気な声でテンポよくメニューを進める。汗をかいた後はスタッフとの打ち合わせやコメントチェックを通し、改善点を抽出。次第に、ゆったりとしたペースで運動する参加者に目線を合わせられるようになった。

「選手とファンの方ではスピードも違う。最初の頃は選手と一緒にバンバン進んじゃったのですが、それはかなり修正しました。膝をついてやってください、2回に1回にしてください、と言うなど、工夫はしました。(ファンには)小さい子どもやお年寄りなどがいるので、どこにフォーカスを置いてやるのかを考えないとグジャグジャになる。(将来)コーチをするのなら、教える人の年代に合った教え方があるなとも思いました。第1回目は(ファンから)『こうしてほしい、ああしてほしい』といろいろなコメントが来て、それに対応して…の繰り返しでしたが、次第に指摘が少なくなっていって、一緒にトレーニングをしながらファンの人がどう感じるかをわかるようになりました。楽しみにしてくれている人もたくさんいたので、達成感もありました」

 競技者としても、一社会人としても世界観を広げた小倉。今後の進路は未定としながら、国内クラブ入りを模索していることも匂わせる。なりたい自分になるための最善手を打つ。

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