【ラグリパWest】1を100にできるかけら。
白球中心の土壌で、八幡工は開校と同時にラグビー部ができる。
著名な監督は岩出雅之。80年代終わりから、90年代中頃ごろまで、7年連続で花園出場を決めた。成果を携えて帝京大に移る。
そして、大学選手権9連覇を成し遂げた。
その指導の原点はここにある。
今の八幡工には「ツクバの頭脳。タイダイの気合」が溶け合っている。
部長の池浦文昭は筑波大出身。現役時代はプロップだった。20年以上チームに携わり、この3月、還暦の定年を迎える。
46歳の監督・小宮山彰人は大阪体育大時代、タテに強いフランカーだった。リフターがなかった時代のラインアウトも獲った。
フォワード出身の2人が教え込んだモールは、東福岡のインゴールを割った。
「0はなにをかけても0やけど、1はかけるもんによっては、100になる可能性があるんやで」
そう話したのは、「アキ」こと岡田明久。天理大でスクラムを主に教えるコーチだ。明治大からワールド(現在は廃部)でプロップとして活躍した。監督の小松節夫とは天理(奈良)の同級生。2人は57歳になる。
天理大は昨秋、7戦全勝で関西リーグを制した。最終戦では、優勝の可能性を残していた京都産業大に70-12と快勝する。
勝因を問われた小松は岡田を指差した。
外国人留学生でも、自分が教えるバックラインでもなかった。スクラムだった。
ラグビーの起点を制圧し、相手の強みを消し去る。
小松が漆黒軍団を教え始めたのは1993年4月。日新製鋼(現在は廃部)を辞め、コーチとして故郷に戻った。当時の所属は関西リーグ三部のC。金髪に近い選手もいた。
そこから四半世紀が経った。
1月2日、岩出の率いる帝京大を29-7で破る。同じくスクラムを押し込み、大学選手権10連覇を阻止した。94年の部史の中で、初の大学王座にあと一歩と迫る。
八幡工にはモールがある。
勝つためには、ゴール前で組む状況を多く作る。アクセスのためキッカーを育てる。サッカー部から引っ張ってきてもいい。
モールをさらに鍛え上げれば、同じ密着プレーであるスクラムにも効果は波及する。
1.5メートル以上押せない高校ルールではスクラムトライはない。しかし、チームの拠り所は2つに増える。
東福岡戦の5分を10分、そして15分にする。それを前半に広げる。後半ももたす。
八幡工は1、いやそれ以上のものを持っている。あとは100にするだけだ。
そして、それはどのチームにもあてはまる。フィフティーンがいるのなら、全国トップに駆け上がる可能性は、0ではない。
(文:鎮 勝也)