コラム 2015.09.13

「オール・カンガク」の結びつきを強める関西学院の学生コーチたち

「オール・カンガク」の結びつきを強める関西学院の学生コーチたち

 英語名詞『UNITY』の意味は、単一、統一、一致団結などである。
 関西学院にはその単語があてはまる。
 大学だけではない。ラグビー部のある高等部、中学部を含め全グレードがまとまりのある一体感を醸し出す。

 そのベースは、現役大学部員が年間を通して高校生や中学生を教える『学生コーチ』のシステムだ。大学クラブ内では、学生が学生を指導する姿は多く見られる。しかし、学制を飛び越えてのコーチングがあるのは日本国内で関西学院だけだろう。
 ラグビーマガジンが掲載する『2015年度主要大学部員名簿』には、関東対抗戦、リーグ戦、関西Aリーグにその登録はない。

 高等部には3人、中学部には2人の学生コーチがいる。
 4年生の波戸岡(はとおか)直輝、津本護、3年生の柴田誠之が高等部を見る。
 45歳の監督、安藤昌宏は言う。
「彼らがいてくれて、とても助かっています。まず、私の目の届かないところをしっかり見てくれていること。さらに私が指摘したことを若い人の感性で噛み砕いて、生徒たちに分かりやすく伝えてくれています」
 歓迎を口にする安藤は、関西学院の卒業生ではない。同じ兵庫県内の県立御影高校、天理大学でSOとして活躍後、1993年にラグビー部初の体育の教員監督になった。
「私が新任で来た時からこういう教え方でした。いつからできたのか分かりません」

 高等部、中学部のコーチを志す大学部員は、1年時は大学のクラブ活動に参加する。その後、希望のグレードでコーチングを始め、そのすべてのチーム行事に帯同する。大学クラブ員としての登録は4年間続けられる。
 教育学部所属の波戸岡は2年から高等部コーチを始め、今年3年目。レフェリーの初歩となるC級も持っている。
「高校生のコーチは楽しいです。自分がプレーできないもどかしさはあるけれど、純粋な高校生とああだ、こうだと言いながらラグビーの話をするのはいいものです」

 中道紀和は日本代表キャップ16を持ち、1999年W杯に右PRとして出場した。長男・優斗は高等部1年ながらLOのレギュラー争いに加わる。父は以前語ったことがある。
「あのやり方はいいと思う。お兄ちゃんが弟たちの面倒を見る感覚なんですよね」
 大阪・啓光学園(現常翔啓光)、同志社大、神戸製鋼とラグビー界の王道を歩んだ者でも感服する。

 波戸岡は中学部でラグビーを始めた。WTBだった高等部3年の夏、右ヒザのじん帯を断裂。大学1年時はスタッフとして分析やレフェリーとしてチームを支えた。そして、コーチの道を選ぶ。
「僕もこれまで、学生コーチの方にお世話になりましたので。私生活も含めいろいろと相談してアドバイスをいただきました。それらはすごく役立ちました」
 学年の関係がない年長者からの助言が、学内での結びつきを強くし、愛校心を生む。そこには報恩や奉仕というキリスト教(プロテスタント)に根ざした学院の教えがある。

 高等部は中学部とともに、平日は西宮市上ヶ原にある第2フィールドで午後4時〜5時30分まで練習する。その後、大学が始める。重なる時間にコーチでない大学生も気軽にプレーを教える。指導者は「余計な事をするな」ととがめない。安藤の目じりは下がる。
「鳥飼なんか、熱心に教えてくれます」
 大学副将のCTB鳥飼誠は、大阪・東海大仰星高校出身の外部進学者。彼のような4年生までもが教えに没頭する土壌がある。

 高等部の創部は1948年(昭和23)。今年68年目になる。現在の部員は54人。これまで全国大会には5回出場。最高位はNO8徳永祥尭(現東芝)らによって成し遂げられた第90回大会(2010年度)の4強である。主なOBにはサントリーWTBの長野直樹、NTTドコモSOの小樋山樹らがいる。

 波戸岡の高等部における目標は明確だ。
「生徒たちと一緒に日本一を目指したい。そうなるようにいい指導をしたいです」
 至上命題は4年ぶりの全国大会出場だ。ライバルは県内2強を形成し、最高41回の出場回数を誇る報徳学園。2月の新人戦(近畿大会予選)は19-14、6月の県民大会は10-5とともに決勝で対戦し連勝している。
 順当に行けば県予選決勝は11月22日。「オール・カンガク」の結束を披露して、まずは全国切符を手に入れたい。

(文:鎮 勝也)

【写真】 関西学院高等部の学生コーチ、津本護、波戸岡直輝、柴田誠之(左から)

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