海外 2023.02.10

【Vol.3】「コーチは常にエネルギーを持っていないといけない」。ユーゴ・モラHC[スタッド・トゥールーザン]インタビュー

[ 福本美由紀 ]
【Vol.3】「コーチは常にエネルギーを持っていないといけない」。ユーゴ・モラHC[スタッド・トゥールーザン]インタビュー
情熱家のモラHC。元フランス代表でキャップ12。(Getty Images)



 トップ14の首位を走るスタッド・トゥールーザン。
 同クラブのユーゴ・モラ ヘッドコーチ(以下、HC)へのインタピュー第3弾だ(第1回第2回はこちら)。モラHCは、会見などで率直な発言をすることで知られている。

 同HCは1990年、17歳でスタッド・トゥルーザンに入団。WTB/FBとして活躍した。
 フランスチャンピオン3回(1994、1995、1996年)、ヨーロッパチャンピオン1回(1996年)と、クラブに栄光の歴史をもたらしたメンバーのひとりだ。
 今回はコーチング哲学について話していただいた。

「若い選手がデビューしていいパフォーマンスをしても、その後数か月試合で起用しないケースがあります。私もスタッフも、そしてクラブも、段階を踏まなければならないと分かっているからです。グラウンド外の日々の行動、そして挫折した時にどのような行動をするのかを見る必要がある。時間が必要です」

 コミュニケーションをとることが大事だ。
「私もスタッフも、選手のことをしっかり観察し、彼らと話し合います。個人面談もします。私は自分のオフィスを持っていません。他のコーチと同じ部屋に席を並べています。だから私が間違ったことを言うと、全員が聞いています。いいことを言っても全員が聞いてくれています」
「くだらないことよりも、意義のあることを多く言っていればいいのですが」とジョークをとばす。

「挫折し、学びながら人間は成長していきます。若くからコーチを始めました。32、33歳でヘッドコーチになりました。でも(当時は)準備ができていなかったのです。カストルでもブリーヴでも。1人でもできると思っていた。でも時間が経ち、気づいたことがあります。もっと他の人に心を開き、意見も聞かなくてはならなかった」

 他人と話し合っても、どこか仕事に逃げていたという。
「自分で解決法を見つけようとしていた。でも解決法はスタッフや選手との話し合いから生まれることもあります。心を十分に開けていなかったのかなと思います」。

 結果を求められるのがコーチだ。
「勝たなければ良いコーチと認めてもらえません。時にはいいこともしていたと思うのですが勝てなかった。そのおかげで学びました。いまは、少しは勝てるようになりました。でも、もし明日負けると、私は間違っていることになる。また考えなくてはならない。もしくは辞めなければならない。コーチという職業は日々多大なエネルギーが必要です。だから早く老けます」

 しっかりと自分の考えや思いを伝える。コーチに求められることのひとつだ。
「周囲の人間を巻き込むことも必要です。話すだけではなく、態度、信頼。時には厳しく接する選手もいます。シーズンのはじめに、スタッフ、選手と一緒にサイクルごとのフレームを定めます。そのフレームから外れる選手がいれば、それは私だけの問題ではなく全員の問題になります」

 個人的な感情ではない。
「ユーゴ・モラが罰するのではなく、グループ、チーム、スタッフが罰するのです。若い選手が、決めたフレームから外れるようなSNSの使い方をすれば教育しなければならない。私は自由意志を尊重しますが、スタッド・トゥルーザンのジャージーを着るからには、選手であれ、スタッフであれ、単なる個人として行動することはできません」

「私はユーゴ・モラ個人ではありません。このクラブの代表なのです。自分の権利と義務を理解しなければはならない。もちろん私個人の意見もあります。例えば政治のことを話すことはありません。私の役割ではないから。協会で起こっていることも私の役割ではありません。私は私のクラブの話を、私の選手の話をしたい。他所で起こっていることは、私にはわかりません。だから話しません」

 コーチとは常にエネルギーを持っていなければならない。
「私がエネルギーを持っていなければ、選手もエネルギーを持てない。まずスタッフに私のエネルギーを伝えなければならない。スタッフがエネルギーに満ち溢れていなければいけません。選手は決して悪いトレーニングをしません。コーチが悪いトレーニングをするのです。選手はコーチに指示されたトレーニングをおこなう。もし選手が悪いトレーニングをしたとしたら、それはコーチがしっかりとエネルギーを込められなかったからです」

 モラHCの朝は早い。
「私が最も気にかけていることは、朝早くにここ(クラブハウス)に着いた時、たくさんのエネルギーを与えられるようにすること。私自身に十分なエネルギーがないと感じた時は、どのように自分の1日をオーガナイズするのか計算しなければいけません」と話す。

「例えば、今朝は大きなスポンサーであるエアバスでのイベントに会長と出席してきました。そういう時は十分なエネルギーを与えられないと分かっていたので、アシスタントコーチが練習の指揮を執りました。明日、明後日は私が指揮します。練習の中心に立って指揮をとる者はたくさんのエネルギーを持っていなければならないのです」

「年齢を重ねてそのことを理解できるようになった」そうだ。
「コーチを始めてから長い間、能力、技術、戦術が経験やエネルギーよりも大切だと思っていました。現在はエネルギーが大切だと思っています。正確さを欠く練習でも、エネルギーが溢れていればいい練習になる。逆に、とても正確でシステム化されていても、エネルギーが感じられなければ良くない練習。エネルギーとはスピードや力だけではありません。なぜ、その練習をしているのか理解することがとても大切なのです」

 ポジティブな推進力ということですか?
「その通り。でも否定的なことは決して言わず、常にポジティブなことしか言わないアングロサクソンのポジティブカルチャーとは違う。私は良くないことは良くないと言います。ネガティブなことはネガティブだから。でもエネルギーを込めて言う。その後はすぐに切り替えます」

 信念がある。
「ネガティブなことをいつまでも引きずってはいけない。それは確かだ。しかし、我々はバラ色ばかりの世界で生きているわけではない。ネガティブなことはネガティブと認めなければならない」

※次回に続く。


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