海外 2023.02.02

【Vol.2】「自由があるから、ファンも選手も喜ぶ」。ユーゴ・モラHC[スタッド・トゥールーザン]インタビュー

[ 福本美由紀 ]
【Vol.2】「自由があるから、ファンも選手も喜ぶ」。ユーゴ・モラHC[スタッド・トゥールーザン]インタビュー
フランス代表12キャップも持つモラHC。(©Stade Toulousain Rugby)



 トップ14の首位を走るスタッド・トゥールーザン。
 同クラブのユーゴ・モラ ヘッドコーチ(以下、HC)へのインタピュー第2弾だ(第1弾はこちら)。モラHCは、会見などで率直な発言をすることで知られている。

 同HCは1990年、17歳でスタッド・トゥルーザンに入団。WTB/FBとして活躍した。
 フランスチャンピオン3回(1994、1995、1996年)、ヨーロッパチャンピオン1回(1996年)と、クラブに栄光の歴史をもたらしたメンバーのひとりだ。

「データや分析など、インテリっぽいことを好んで語るコーチもいますが、ラグビーはとてもシンプルです。どこでかわすか、どこで突き進むか、どこで上を越えていくか。これがディフェンスを倒すための3つの方法です。さらにボールを持っている時、持っていない時。そしてターンオーバーした時とされた時のトランジションがある。これだけ理解できればとてもシンプルです」

「でもシンプルなことをすることは難しい。トゥールーズの強みは、とてもシンプルなことをとても上手くすることです。私が始めたことではありません、私はこのクラブにすでに存在していたことを受け継いだのです」

 大事なことは、「素早く、賢く、状況判断と適切な対応」(状況に合わせたインテリジェンス)と言う。
「ピエール・ヴィルプルーのような偉大なコーチに教育されました。日々のトレーニングは状況判断に基づいています。フィジカルの強度ではなく、状況判断の難度の高い練習です」

「スピード、イニシアチブ、大胆さが必要」だ。
「リーグで優勝したければ、構築されたプレーでも勝つことはできる。しかしクレルモンやパリ、ラ・ロシェルのように他にも素晴らしくトレーニングされているチームがあり、これらのチームに勝つためにはより素早く判断して、より大胆でなければいけません」

 指導の芯には、「選手自身で判断する能力を伸ばす」という考えがある。
「選手には自分で判断してイニシアチブをとってほしい。選手がイニシアチブをとるたびに『ノン!』と言うと、選手はイニシアチブをとろうとしなくなる。選手がイニシアチブをとれるように構えていなければならない」

「時にはそのイニシアチブが原因で試合に負けることもある。でもそれを受け入れなくていけません。そして、なぜそのイニシアチブをとったのか、なぜとらなかったのかを理解しなければならない。そのために選手と頻繁に話し合うようにしています。自由と創造性はこのクラブに昔からずっと根付いているもので、今も大切にしています。我々の無意識のカルチャーです」

 長く継承されているものがある。
「スタッド・トゥルーザンではプロ化される前から長い間、15対15のゲーム形式の練習をしていました。当時は他のクラブでは負傷の危険があるからとあまりおこなわれていませんでした。このクラブでは今も昔も15対15の練習を多くします。フランス代表も同様ですが、もっと閉じられたオプション。私たちはどちらかというと、ボールをもっと展開するプレーを目指しています。方向性は異なりますが、フランス代表は結果を出している。勝てば正しいのです」

「『時間の矢』(ピリオダイゼーション)など、ガルチエ(フランス代表HC)はエディー・ジョーンズから大きな影響を受けたのだと思います。エディーは2019年W杯のファイナルで負けてしまいました。しかし、いいメソッドを見つけたと思います」

 エディーを愛でる。
「日本代表では考え方を変革し、日本は強豪国に勝つことができると信じたのです。2015年のW杯で南アフリカを倒したのは長い年月の努力によるものでしょう」

「マネージメントやコーチングには様々な方法があります。勝つチーム、成功するチームは、そのチームのカルチャーと強い願望、そしてグラウンド上でのある程度の自由が揃っているチームだと思っています。ロボットでも勝つことはできますが、勝ち続けることはできない」

「自由があるからファンや観客はスタッド・トゥルーザンのプレーに喜びを感じるのです。選手がプレーする喜びを感じるということはとても大切です。選手が喜びを感じていないとしたら、何かうまくいっていないということ。選手と話し合い、バスケットボールや他のスポーツをして頭を空っぽにして、ラグビーで再び喜びを感じられるようにします」

「難しいのは毎日ルーティーンになりがちな練習を繰り返しながら、ラグビーに対してフレッシュな気持ちで喜びを感じられる状態を保たなければならないこと。良いバランスを見つけなければならない。トレーニングは喜びばかりではありません。遊ぶためにプレーしているのではありません。それでもこの喜び、充足感を維持しなければならない」

◆選手の成長とサポート。

「選手には成長し続けてもらいたい」と話す。
「ジェローム・カイノは36歳でこのクラブにやって来ましたが、若い選手のようにシーズンを過ごしました。彼のキャリアの最後の3年間はジュニアのような気持ちで過ごしていました。ラグビーを楽しみ、20歳前後の選手と飲みに行き、グラウンドの内外で喜びを感じていました。とても大切なことです」

 スタッド・トゥールーザンには好選手がたくさんいる。しかし、成長の速度は様々だ。
 ロマン・ヌタマックを例に出す。
「彼は(昨年11月の)日本戦の序盤で苦戦しました。一つミスをし、キックオフをダイレクトでタッチに出してしまうなど、続けて4つのアクションがネガティブでした。ネガティブなスパイラルの典型的なケースです。でもロマン(ンタマック)は、ネガティブなアクションが続いても、ここ、という瞬間にポジティブに切り替えることができる選手です。あの試合ではその後、ダミアン・プノーにキックパスをしてファーストトライが生まれた。彼には状況に適応する能力がある」

「ロマンがさらに良い選手になるためには、このような難しい時期も通過しなければいけません。23歳という彼の年齢にすれば、すでに素晴らしい選手です。これまでコーチしてきた若い選手の中で最も輝きを持っている選手です。とんでもない力を持っている。彼がいま経験していることは、現段階ではネガティブに見られるかもしれませんが、彼をさらにいい選手にしてくれるポジティブなものと確信を持っています」

 スタッド・トゥールーザンには、各国代表のFBが在籍している。トマ・ラモス(フランス)とアンジュ・カプオッゾ(イタリア)、ホアン=クルース・マリア(アルゼンチン)だ。
「彼らは素晴らしい秋のテストマッチシーズンを過ごしました。私たちは、3人のいいFBに恵まれています。(その3人をいろんな形で起用しているが)背中の番号には、そんなに大きな意味はない。ここでは、昔からそう考えられています」

「失敗で得ることの方が勝利で得ることより多い」と言う。
「自己を組み立てていくためには、困難も受け入れなければならないと思っています。トマ・ラモスにも困難な時期がありました。いまはメルヴィン・ジャミネがその番です。我々はベストな選手がグラウンドにいてくれればいいのです。その中で誰がFBをしても、WTBをしても、CTBをしても、SOをしても問題はない。なぜなら私たちのラグビーはプレーが一度始まるとポジションは関係ないのです。そこに力を入れています」

「でも、それを受け入れることができる開かれたマインドを、選手が持っていなければならない。トゥールーズに入団したばかりの選手は最初に苦労する。でもトゥールーズに来たら、それを受け入れなければいけません」

 イタリア代表としてブレイクしたカプオッゾも魅力的な才能を持つ。
「SNS、メディア露出など、彼に限ったことではありませんが、高まった知名度と上手く対処しなければならない。もちろんクラブは彼に付き添います。でも24時間、毎日彼についていることはできない。だから彼自身で対処することを学ばなければならない」

「フレデリック・ミシャラク、クレマン・ポワトルノー、トマ・カスタニェード、ドニ・シャルヴェと、常にメディアの注目を集めてきた選手がいました。アンジュ(カプオッゾ)は、ロマンやアントワンヌ(デュポン)のように、メディア露出が多くなる選手です。その状況で生活し、成長していくことができるか、が大事です。もしかしたら彼には負担が大きすぎるかもしれない。それは、そのうち分かることでしょう」

 メディアに引っ張りだこの選手については、どのようにマネージメントするのか。
「プレス担当者とGMのジェローム・カザルブが、露出をある程度管理するようにしています。しかし多くの記者がクラブを通さず選手に直接コンタクトします。またスポンサーからのリクエストもあります。クラブから選手に一定の枠組みを定めます。選手には権利と義務があります。選手が大胆かつ賢く自律していることに不満は言えません」

「選手各自が注目される現実を生きていかなければならない。露出に関して正しい判断をしなければならない。アンジュは昨秋、判断を誤ったことがあります。そこで彼は気づきました。痛い目に遭い、試合に出ることができなかった。しかし、テストマッチには間に合い、いい結果を出しました」

 失敗は誰にでもある。
「昨年はトマが良くない判断をしました。でもそれは選手として、また人間として成長する過程なのです。それぞれが失敗しながら成長していくのです。経験は人から聞くものではなく、自身で生きなければものになりません」

 昨秋の日本とのテストマッチでンタマックが苦しむことを予想していた。
 試合の2日後、本人と話した。
「私は自由に話ができる人間です。私は他人を裁かない。妬まない。私は私が見たことを話します。そのとき彼が『それは違う』と言うなら、それでいいのです。それも、選手としての人生なのですから。私はロマンが8週間試合に出ていなかったことを知っていました。危険に晒されることになるだろうと予想していました。フィジカル面ではなく、試合の中での状況判断、反応においてです」

 ラグビーは難しい。
「バイオリンの達人、ピアノの達人、テニスの達人は、なぜ毎日同じことを繰り返し練習するのでしょう? するしかないからです。ロマンは負傷していたから8週間、いつもの練習を毎日はしていなかった。だから、レベルの高い試合で必要な反応を2〜3週間で取り戻すことができなかったのです。それ自体は問題ではありません。私が彼に秋のテストマッチシリーズに行ってほしくなかったのは、彼が晒されることが嫌だったのではなく、彼にとって危険だったからです」

※次回に続く。


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