府中ダービーでの「課題」に見るサンゴリアスの現在地。
両軍の本拠地にちなんで「府中ダービー」と銘打たれたリーグワン第7節は、点の取り合いになった。
東京サントリーサンゴリアスのFB、松島幸太朗がさすがの走りを繰り出したのは、23-27と4点差を追う後半14分頃だ。
目の前に2人、並んだ防御の「コネクト(つながり)がほぼなくなった」と気づき、突撃した。追っ手につかまれながらも、倒れず、持ち直し、ギアを入れた。尾崎晟也がフィニッシュし、勝ち越す。直後のコンバージョン成功もあり、スコアは30-27となった。
松島が尾崎晟のトライをアシストしたのは、この日2本目だった。果たしてハットトリックを決める尾崎晟について聞かれ、日本代表の常連たる松島は微笑む。
「…(ほぼ)僕のトライです」
最終結果は40-34。互いが4トライずつを取り合う展開に、東京・秩父宮ラグビー場に集まった1万人超の観衆の興奮はそう簡単には冷めなかっただろう。
それでも勝ったサンゴリアスは、この熱戦を早々に過去のものとした。
試合後の記者会見の時点で、田中澄憲新監督がすでに改善点を指摘したのだ。
「得点後のリスタートで課題が出た。チームで成長の糧にしてレベルアップしたいです」
ラグビーでは得点が決まった後、スコアされた側のキックオフでプレーが再開する。
点を取った側が自陣に蹴り込まれる格好だ。その球を首尾よく処理すれば、向こうに反撃されるリスクを減らすことができる。
この試合でサンゴリアスが点を取った機会は、計8回だった(トライと直後のコンバージョンはあわせて1回とカウント)。
ノーサイド直前のだめ押しのペナルティゴールの後を除く7度にわたり、「得点後のリスタート」を迎えたことになる。
指揮官の言う通り、その機会はしばしばブレイブルーパスにチャンスを与えた。
6-0で迎えた前半14分頃は、自陣22メートル線付近でボールを守ろうとしたところでタフなダブルタックル、ジャッカルを食らった。ペナルティゴールを与え、6-3と迫られた。
13-3とリードを広げて迎えた同23分頃には、一度確保して蹴り返した球を相手に活かされる。カウンターアタックの餌食となり、ブレイブルーパスの複層的な攻撃陣形、CTBのセタ・タマニバルのキックに防御を破られる。
再び自陣ゴール前に入られるや、左から右への展開を許して失点した。
20-10と突き放しかけてからの同29分頃には、松島のロングキックで球を右タッチラインの外へ出す。
陣地を挽回したかに思われたが、ルール上、蹴った位置の平行線上でブレイブルーパスにラインアウトを与えた。
松島にボールが渡る前の接点が、22メートルラインを超えていたのだ。同ラインより前にあったボールを蹴る場合は、インフィールドの手前でバウンドさせなければ「ダイレクトタッチ」と判定されて陣地を戻されてしまうのだ。
互いに攻め合って23-17となっていた後半5分頃にも、サンゴリアスは、自陣の深い位置から脱出しきれなかった。まもなく奇襲で防御を破られ、20-23と迫られた。
「リスタート」のトラブルで接戦を招いた格好のサンゴリアスでは、タックルの破壊力で魅したFLの山本凱も「(自陣からの)脱出が課題になっている。改善したいです」。キックでの陣地獲得を担う松島も、こう認めた。
「キックオフからのリターンがよくできなかった。もうちょっとクリアにしないと」
実は田中監督は、戦前から「得点後のリスタート」について話していた。
思い返すのは第6節だ。
初の4強入りを狙う横浜キヤノンイーグルスが、埼玉の熊谷ラグビー場で2連覇中の埼玉パナソニックワイルドナイツに激突。後半35分までに19-14と勝ち越しながら、直後の相手ボールキックオフで王者の圧を受けた。
そのまま自陣ゴール前に封じ込められ、19-21と逆転負けを喫した。
イーグルスの沢木敬介監督は、サンゴリアスを率いて旧トップリーグ2連覇の実績を持つ。沢木と現役時代に同期だった田中は、盟友の悔やまれる瞬間を自分たちの問題として語った。
「逆転した後のキックオフ。むちゃくちゃ、大事じゃないですか。あそこがゲームの肝だと、皆が理解しているかが大事。あのキックオフでは、寄り(イーグルスの捕球役への援護)が遅いと(外から見れば)わかる。ただ、それを(プレッシャーのかかっている)選手が理解し、遂行していたかは…。いまは、僕らにも同じことが起きると感じます。ただ、パナは絶対にそんなことをしない」
つまりブレイブルーパス戦では、かねて懸念していた点を表面化させ、それでも白星を得たわけだ。指揮官は、勝って反省できることを前向きに捉えた。
後半に入って反則が増えたが、その点も田中監督はポジティブに見る。
この日の担当となった滑川剛人レフリーには、第4節で17度も笛を吹かれている。その後に滑川氏本人から、厳しく判定するプレーのビデオクリップを渡された。
特に、キックを蹴った際にその前方にいるプレーヤーが動いてしまうのを注意するようにと促された。「そこの反則は、(ブレイブルーパス戦では)取られていない」と指揮官。進歩があったと強調する。
「自分たちが主導権を握り返した時のペナルティの繰り返しは、もう少しマネージメントができるようになっていくと思います。ゲームの肝を皆、理解できるようになってくる」
現役時代はSHだった。
2011年に引退後は、クラブの採用、チームディレクターを経て、2017年度より母校の明大へ入閣。同部の監督に就いた2018年には22シーズンぶり13度目の日本一を達成し、昨季、サンゴリアスの現場にゼネラルマネージャーとして戻っていた。
指揮官になったのは今季からだ。旧トップリーグ時代に5度の優勝を誇り、常に結果を求められるクラブを束ね、「プレッシャーを楽しんでいます」と述べる。
その「プレッシャー」の要因とは何か。結果責任を問われることか。そう聞かれ、「勝たなくてはいけないのはどこで監督をしても一緒。ただ…」と答えた。
「(サンゴリアスでは)いい選手と対峙しなくてはいけない。方針、メッセージをクリアにしなければいけない。その作業が、大変かなと。毎週、毎週、どうしようかな…というところですかね」
休息週を前に、6勝1敗で12チーム中3位についた。国内有数の名手が揃う陣容を、日々、最適化する。