【現地観戦リポート】 フランス代表を後押しする盛り上がり。祭りはすでに始まっている。
11月12日におこなわれたフランス×南アフリカのキックオフは現地時間21時だった。18時30分に宿泊していたホテルを出ると、スタジアムに向かう道にはすでにフランス代表のジャージーを着た人、代表チームのベレー帽やマフラーなどのアクセサリーをつけた人、赤、白、青のトリコロールのフェースペイントをした人、フランス国旗を持った人があふれていた。スタジアムに近づくにつれてその数は増える。周辺のバーには人が歩道にまであふれ通行できないほどだった。
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スタジアムに入りしばらくすると選手がウォーミングアップのためにグラウンドに入ってくる。歓声と拍手が起こる。ウォーミングアップ中も歓声が止まない。
この間、大型ビジョンでは出場選手の紹介がおこなわれる。まず南アフリカの選手が紹介される。そして照明が落とされフランスチームの紹介が始まる。光と音の演出で盛り上げながら、まずコーチやビデオアナリストが1人ずつ映し出される。次に選手の番だ。背番号、選手のファーストネームをDJが1人ずつ読み上げると、ラストネームを観客が叫ぶ。やはりキャプテンのアントワンヌ・デュポンを呼ぶ声がひときわ大きくなる。スタジアムの一体感がどんどん高まる。
選手紹介の後はこのチームの歩みを紹介するムービーが流れる。2020年のシックスネーションズから昨年のオールブラックス戦の勝利、今年のシックスネーションズ優勝、そして前週のオーストラリア戦でのプノーの逆転トライまで続く。最後に「僕たちの歴史は続く」というテロップで締め括られる。このチームの歴史を共に生きてきたような感覚になる。
フランス協会は、昨年11月のスタッド・ド・フランスでのオールブラックス戦から、試合前のスタジアムを盛り上げる演出に注力している。より多くの人に代表チームを応援してもらうためだ。
新しいイベント会社に企画を依頼し演出を見直した。音響を新たにし、ウォーミングアップ中にビジョンに流れる映像も、試合前のロッカールームでのファビアン・ガルチエHCのスピーチを使うなど、それまでよりも臨場感が増した。
選手の入場前には照明を落とし、ライティングショーが始まる。「Allez les Bleus !(アレ・レ・ブルー)」コールが起こる。
音響が音楽から心臓の鼓動音になる。スタンドのファンの間でも緊張感が高まってくる。そしてスタジアム全体でカウントダウン。「5、4、3、2、1、0!」で花火が盛大に打ち上げられ、スモークで描かれた赤白青のフランス国旗が現れる。トンネルで待機していた選手がグラウンドに入場する。レ・ブルーコールがさらにパワーアップする。座席にあらかじめ用意されていたフランス国旗がスタンド中で振られる。
映画『グラディエイター』の闘技場の観衆の熱狂ぶりが頭をよぎった。
テレビでは見ていたが、実際にスタジアムで経験するとサポーターの感情の盛り上がりが肌で感じられ圧倒される。このプレマッチのショーについて、「グラウンドに入る時の盛大なショーやスタンドの熱気のおかげでさらにモチベーションが上がって、すぐに戦闘モードに入ることができる」と選手は喜んでいる。
逆に対戦相手は全てを敵に回して孤立したような感覚になるだろう。南アフリカのキャプテン、シヤ・コリシが試合後の会見で、「フランスチームはこの素晴らしい雰囲気に後押しされ、いいゲームをした。フランスの人はこの国の代表チームを誇りに思うことができる」とチームと共にフランスのサポーターにも賛辞を送った。
「この雰囲気を作ることができるのは、チームのパフォーマンスがあるから。このチームにはアイデンティティーがあり、魂がある。だからサポーターの心を惹きつけることができる」とフランス協会の広報責任者のロラン・ラトゥールが嬉しそうに話す。
「ウェールズのプリンシパリティ・スタジアムやイングランドのトゥイッケナムでもプレマッチのショーはおこなわれているが、他にはないフランスらしいものを作りたかった。来年のワールドカップではすべてのスタジアムが最高に熱くなるように仕掛けたい」と続けた。
試合は脳しんとう、けが人続出の死闘。さらにキャプテンのアントワンヌ・デュポンがレッドカードで退場しBKが迷子になった時間帯もあったが、6万8000人の声援に後押しされ、レ・ブルーは勝った。サポーターと共に戦い、この経験を共有したのだ。
試合後はチームがテーマ曲に選んでいる『FREE FROM DESIRE』が流れ、ビジョンには歌詞が映されてスタジアムがカラオケ状態になった。ビジョンにはデシベルも表示され、さらに大きな声で歌わせる。
試合後の記者会見などの取材を終えてスタジアムを出たのは日付をまたいだ0時30分。周辺のバーでは祝杯をあげるサポーターが集っていた。そこへフランス代表チームのバスが通りかかった。みんな声を上げて手を振る。
そして1時を過ぎて私がホテルに着いた時、ちょうど中から20歳前後の青年のグループが出てきて、「アレ・レ・ブルー!」と叫びながら出かけて行った。翌日、パリへ戻るためマルセイユ駅まで行く途中の道にも地下鉄にもフランス代表ジャージーを着た人があちこちで見られた。さらにパリに到着した時にも。
祭りはすでに始まっている。