海外 2022.10.27

22年ぶりの熱戦。今季のニュージーランド国内選手権が盛り上がった理由。

[ 松尾智規 ]
22年ぶりの熱戦。今季のニュージーランド国内選手権が盛り上がった理由。
カンタベリーを倒して22年ぶりにNPC優勝を遂げ、抱き合うウエリントンの選手たち(撮影:松尾智規)


「22年前、僕はまだ生まれていません」
 笑いながらルーベン・ラブが答えたのは、10月22日の決勝前日のインタビューだった。

 現在、ニュージーランドでは女子のラグビーワールドカップが開催されている。国内の地方代表選手権(以下、NPC)はその陰に隠れた形になっていたが、決勝戦は注目された。

 ファイナリストとなったのは、5年ぶりの王座奪還を狙ったカンタベリーと、22年ぶりの優勝を目指したウエリントン。戦前から熱い試合が期待された。

 注目されたのには理由がある。
 今年の決勝のカードは、22年前のクライストチャーチでの決勝の再現となったからだ。

 2000年の決勝は、NPCの歴史で最も白熱した試合と語られているからなおさらだ。
 メディアも当時の激戦をニュースで大きく紹介した。

 当時はランカスターパークでの開催だった。
 しかし同スタジアムは、2011年の地震で使えなくなる。今回の決勝はオレンジセオリースタジアムで開催された。

 メディアは、TJ・ペレナラやラブなどに、当時の試合を覚えているかインタビューをした。
 2001年生まれのラブ、今年NPCで名を売ったパワフルNO8のピーター・ラカイも生まれてない。ほとんどのウエリントンの選手は、22年前はまだ幼く、当時の優勝のことは記憶にないようだ。

NPCで大活躍だったウエリントンのNO8ピーター・ラカイ。来季ハリケーンズ入りが決定(撮影:松尾智規)

 当時のカンタベリーには、クルセイダーズの現ヘッドコーチであるスコット・ロバートソンや、ジャスティン・マーシャール、アンドリュー・マーテンズ、現・東芝ブレイブルーパス東京ヘッドコーチのトッド・ブラックアダーなど、メンバーの大半がオールブラックス(ニュージーランド代表)だった。

 一方のウエリントンのメンバーも豪華だった。
 タナ・ウマンガ、クリスチャン・カレン、ジョナ・ロムーといった黄金のBK。FWを見ると、のちにオールブラックスのスターとなったロドニー・ソオイアロ、ジェリー・コリンズなどがメンバーにいた。
 両チームには、他にも多くの大物が揃っていた。

 今は亡きロームーが対面のマリカ・ヴニンバカを一連のプレーで2度も吹っ飛ばしてのトライをしたシーンは、ラグビーファンの目に焼き付いていることだろう。
 22年前は、大接戦の末にウエリントンが34-29で勝利し、優勝した。
 そのとき以降、ウエリントンは優勝から遠ざかっていた。

 今回の決勝は、22年前と比べると豪華なメンバーではない。
 オールブラックスの試合数が多くなるにつれ、ここ10年ほどは、現役オールブラックスがNPCに出場する機会が激減した。
 仮に出場してもけがからの復帰戦、代表での出場機会の少ない選手に対しての調整でプレーするくらいだ。
 
 寂しくなったとつくづく感じる。
 NPCの観客減は、オールブラックス不在の影響が大きいだろう。

 準決勝でも観客が少なく寂しいスタジアムだったが、決勝はクライストチャーチまで足を運んだウエリントンのサポーターをスタジアムで多く見かけた。
 22年ぶりの優勝を見るために現地に駆け付けたのだろう。結果、活気のあるスタジアムとなった。

 試合はウエリントンが有利に進めた。22年ぶりに、絶対に優勝を勝ち取りたい。そんな気持ちがプレーに出ていた。

中央の長身選手は元オールブラックスLOのドミニク・バード。決勝もラインアウトなど大活躍した。手前左はTJ・ペレナラ、右はアサフォ・アウムア(撮影:松尾智規)

 その中でも際立ったのは、決勝当日の朝、公式発表でオールブラックスのバックアップメンバーに名が挙がったHOアサフォ・アウムアだ。
 準決勝で見せた凄まじい突進を決勝でも見せてチームに勢いをつけた。2試合連続でトライも挙げた。

 ベテランSHのペレナラもさすがのプレーを見せた。
 シーズン中からチームを引っ張り、そのおかげで若手が成長した。特に決勝の大舞台では、ペレナラの経験が活きた。

 ウエリントンは終盤にPGを2度も失敗し、試合を決めきれなかった。終了間際には5点差に迫られた。
 22年のうちにチャンスが何度もありながら、優勝を逃してきたチームの詰めの甘さが最後に出たか。

 しかし、最後にキッカーを代えた。
 PGを任されたラブがしっかりと決める。26-18として試合を決めた。

 そのラブは、持ち味の切れのあるランプレーだけでなく、FBとしてキッキングゲームのうまさも見せた試合だった。
 安定感も出てきた。さらに上(オールブラックス)を狙える位置にきたと言っても過言ではないだろう。

決勝でゴールキックを狙うルーベン・ラブ(Photo: Getty Images)

 ウエリントンは試合巧者のカンタベリー相手に、ラインアウトでプレッシャーをかけ、何度もボールを奪った。
 主将のデュプレッシー・キリフィを筆頭に、ケイレブ・デレイニー、ラカイの3列陣がブレイクダウンで奮闘。このふたつが勝因になっただろう。

 試合終了後は、観客がピッチに降りて優勝セレモニーを間近で見ることが許された。
 22年ぶりの優勝をかみしめているウエリントンの選手たちの表情は、見る者の琴線に触れた。

 NPCは、スーパーラグビーと比べるとレベルは劣る。しかし、それでもレベルは高い。
 元オールブラックスやベテラン選手、若い選手が、一緒にプレーできる貴重な場。ニュージーランドラグビーにおいて大きな意味を成している。

 今回の決勝を見てNPCの大切さをあらためて感じた。
 今季のオールブラックスは好不調の波はあるが、実は若く才能のある選手がどんどん出てきている。
 ニュージーランドラグビーの将来はむしろ楽しみだ。

ファンも一緒にピッチでウエリントンの優勝を祝った(撮影:松尾智規)

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