コラム 2022.01.22

【コラム】ファーストのありか

[ 谷口 誠 ]
【コラム】ファーストのありか
第2節の味の素スタジアムは炎の演出(東京SG vsBL東京/撮影:松本かおり)

 アスリートファースト、チームファースト、アメリカファースト…。あるものを「一番大事」と表現する流行り言葉だが、先日はこんな変わり種を聞いた。

 ドラマファースト。

 テレビ局の人あたりが言いそうな言葉だが、違う。発言の主は、埼玉パナソニックワイルドナイツの飯島均ゼネラルマネージャー(GM)だった。 

 2019年、旧知のTBSディレクター、福澤克雄さんから電話を受けた。ドラマ「ノーサイド・ゲーム」の撮影に協力してほしいという依頼だった。

 トップリーグのカップ戦を控えた時期。しかし、飯島GMはチームに弁舌を振るった。「ワールドカップの年に池井戸潤さん原作のドラマに出られる。こんなチャンスはもう来ない。ラグビー界の人間はこれに懸けるべきだ」。

「試合の勝ち負けは後から取り戻せる」とまで言ったそうだから、恐れ入る。そして掲げたスローガンが「ドラマファースト」だった。「スケジュールはまず撮影ありき。その合間に練習をしていた」。北関東から日本屈指の強豪をつくりあげた名物GMは笑う。数十人の選手、スタッフが協力し、迫力ある試合のシーンができあがった。

「スポーツには理屈じゃない感動がある。それを伝えられる絶好の機会がワールドカップだった」。大会が始まる前から盛り上げ、ラグビーの魅力を広める手伝いをしたかったと語る。

 ワイルドナイツは三洋電機時代、役員から廃部の方針を伝えられたことがある。「どうやって生き延びるかを考えてきた」。チームの外の人に必要と思われる存在になるには、勝利だけでは足りない。そうした長年の努力の一端を表す言葉が「ドラマファースト」だった。チームの活動方針としては前代未聞だろう。しかし、意図するところは明確だし、ほほを緩めさせるユーモアがある。

 一方で、スポーツ界の「○○ファースト」には首をひねるものもある。東京五輪の前後によく使われた「アスリートファースト」。選手のためといえば聞こえはいいが、実際には国際オリンピック委員会(IOC)などが自分達の要望を通す口実になっているのでは、と思わせる場面もあった。

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