【コラム】ファーストのありか
2019年のワールドカップでは「チームファースト」が問題になった。ワールドラグビーはこの言葉を盾に、選手が泊まるホテルの改修まで日本側に強要した。行きすぎたさまざまな要求は経費の増大にもつながった。組織委の大会報告書には「チームファーストの定義が漠然としている」「ワールドラグビーやチームは常にチームファーストを拡大解釈して要求してくる」と教訓が記されている。
選手が思う存分にプレーできる場を準備する。大会を運営する人たちにとっては、言わずもがなの責務である。しかし、感染症の拡大やテロ、戦争など、人々の安全が脅かされる状況になった時、本当に選手が「一番」の存在なのか。そう言い切れないことは、この2年間で選手を含む多くの人が感じたことだろう。逆に、周りの人々や世間の支持があってこそ選手が競技に専念できる側面がある。
五輪やワールドカップなど国際大会の時に、スポーツ界の「上から目線」は露わになりやすい。しかし、状況は変わりつつあるのかもしれない。そう感じさせる出来事があった。
ワールドラグビーがこのほど発表した、気候問題に関する計画。他の競技と比べ、画期的な内容が含まれている。大会の運営などで排出される温暖化ガスの削減に高い目標を掲げたほか、具体策に目を引くものがある。特に、ワールドカップの招致や運営では大きくかじを切った印象だ。
分かりやすいのがハコモノに関する方針だろう。国際スポーツイベントと言えば、スタジアムやインフラの新築、改修が付きものとなっている。東京五輪では会場の整備に1兆円近くが費やされた。しかし、ワールドカップでは今後、一定の条件を満たした工事しか認めないという。試合会場には再生エネルギーなどを活用したスタジアムを優先的に使う。開催国を選ぶ際にも、環境問題への取り組みが重視されるようになる。
行動が伴わなければ意味がないが、より世の中に貢献できる大会にしようという意思は伝わる。五輪やサッカーワールドカップと比べてかなり厳しい規定になったが、他の競技が後に続く可能性は十分にある。
産声を上げたばかりのリーグワンにも、こうした方向性は期待されるところ。リーグは看板の1つに社会問題の解決を掲げている。どの課題に取り組み、どう目標を設定するか、リーグと各チームが早急に決める予定になっている。