コラム 2022.01.22
【コラム】ファーストのありか

【コラム】ファーストのありか

[ 谷口 誠 ]

 ワールドラグビーが打ち出したように、気候問題は有力な候補だろう。欧米のプロスポーツチームも取り組みを加速している。野球の米ヤンキースは専門の科学者を雇用し、具体策を練っている。イングランドには、試合開催や観客の移動などに伴う温暖化ガスをほぼ全て削減、吸収しているサッカーチームもある。

 日本はまだのんびりしている。基本的な取り組みの1つとして、温暖化ガスの排出量を測定して削減計画を定める、というものがある。ただ、取り組んでいるのはJ、Bリーグの計数チームにとどまる。リーグワンが全チームで始めればインパクトは大きい。

 ラグビーが今、この問題に取り組むべき理由もある。先日、トンガを襲った噴火と津波。被害の全容はまだ分からないが、同国はもともと世界で3番目に自然災害のリスクが高い国と認定されていた(日本は46番目)。

 原因の1つが平らな地形である。本島のトンガタプ島は最も高い場所で海抜28㍍しかない。今回のような津波はもちろん、温暖化によって海面が上がったり、台風が増えたりすると被害は甚大なものになる。

 リーグワンのチームなどが募金などの支援を始めたのは素晴らしいこと。ただ、長期的にトンガの人々を災害から守るなら温暖化対策に取り組まないといけない、という話になる。

 スポーツが社会の課題を解決することはスポーツそのものを救うきっかけにもなる。ワールドラグビーの急激な方針転換の背景には、危機感がある。多くの先進国でスポーツ離れが進む。見る人、プレーをする人が減っている。1チームに15人が必要なラグビーの場合、地崩れ的に競技者が減りかねない。日本で既に起き始めている現象である。

 ワールドカップの日本代表の雄姿を見て、多くの人が心を動かされた。素晴らしいことだが、それだけでは十分ではない。グラウンドの外でも存在価値を示していかないと、スポーツは世間の支持を集められない。そんな時代になりつつある。五輪が典型だが、「アスリートファースト」だけでは大会の招致に手を挙げる国も減っていく。

 流行の表現に乗っかるとしたら、スポーツに必要なのは「社会ファースト」「世の中ファースト」といったところか。そう考えると、チームの「外」を意識させる言葉だった「ドラマファースト」は、既にこの方向を目指していたことになる。

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