新生・静岡ブルーレヴズの日野剛志、「自分自身の成長」のために母校・同大のスクラム強化。
もう大丈夫だ。
「昨季、負ったけがも癒えて、練習はできています。開幕メンバーを決めるのはコーチ陣ですが、いい形で出られる準備ができていると思います」
日野剛志。静岡ブルーレヴズの一員だ。スクラム最前列のHOに入る。
今年5月までのトップリーグ最終年度は、初戦の大けがにより棒に振った。2022年1月に始まる「NTTジャパンラグビー リーグワン2022」では戦列に戻れそうだ。
クラブは法人化に伴い、前身のヤマハ発動機ジュビロからリニューアルしたばかり。まもなく32歳の日野は、その変化をひしひしと感じる。12月20日に都内であったメディアカンファレンスにて、新たなジャージィをまとって語る。
「プロフェッショナルクラブになろう。ファーストミーティングでは、こんな山谷(拓志 新社長)さんからの熱い言葉があり、選手の意識が変わりました。スポンサー様に対し、結果で返す。シーズンが始まれば、それを求めていかなくてはいけない。(ジャージィの)目に見えるところに(スポンサー名が)ついています。いろんな方から応援されていることは、いろんな場面で感じます」
身長172センチ、体重98キロと小柄も、クラブのプレースタイルに必要なプレーで台頭する。タッチライン際を駆け抜けるスピード、カウンターラックの契機となりうるロータックル、何よりスクラムワークで。
2016年以降、日本代表として合計4キャップを獲得。2017年からは、ナショナルチームを支えたサンウルブズの一員として国際リーグのスーパーラグビーにも参戦した。
日本代表とサンウルブズには、ヤマハのFWコーチだった長谷川慎が参加。低い位置で塊を作る独自のスクラム理論を、国内のトップ選手へ注入する。
いまもなお日本代表のスクラムを支える名セコンドは、教え子たちを褒める際に「いま教えている選手は、自分たちの母校に行ってコーチができますよ」と話したもの。自分たちの取り組みを第三者へ説明できるほど、深く理解できているのだと言った。
日野もそのひとりだ。最近は長谷川の見立て通り、出身の同大でスクラムを教えてきた。
「オファー」を出したのは、元同大コーチの中村直人氏のようだ。現役時代に日本代表、サントリーで長谷川とプレーした右PRで、学生時代の日野をヤマハに導いた経緯がある。恩人に頼まれた日野はクラブに了承をもらい、今春から「非公式」で京都府内のグラウンドへ通った。ボランティアだという。
「けがをしたタイミングで、(同大に)スクラムを教える人材がいないと(聞いた)。選手だけで頑張ることも素晴らしいことですが、スクラムではちょっとしたサポートをするだけで選手は助けられます。逆に、僕が選手だったら(専門の指導者がいない状況は)しんどいだろうと思っていました。ですので、リハビリや自分自身の勉強も兼ねて行かせていただきました。チームに確認を取ったら『(本業に)問題がない範囲なら』ということでした」
質疑の延長で、恩師の「慎さん」の言葉を思い返す。
「慎さんも『教えることで自分が成長できる』とおっしゃっていて、それを実行されていたんです。どのカテゴリーのどの選手にも隠すことなく(自身の理論を)伝えていた」
12月18日、大阪・東大阪市花園ラグビー場。同大は大学選手権4回戦に挑んだ。日野がスタンドで見守るなか、対する大東大とのスクラム合戦で優位に立つ。組み合う前から互いが密着し、膝を深く曲げ、向こうの塊より低い位置で背中をまっすぐにする。
その延長で、左PRの山本敦輝がプッシュ。自身より8センチも大きな対面を、担ぎ上げるように押し込む。
日野は「あれは山本選手の力」としながら、こうも続ける。
「せっかくいい選手がいる。少しでも彼らの成長につながるものがあればいいなと。自らいろいろと考えて悩むのも大事ですが、やはり(識者に)アドバイスが聞けたらいいなとは(学生時代の)僕も思っていたので」
同大は12月26日、東京・秩父宮ラグビー場での準々決勝で帝京大とぶつかる。「あくまで現役選手。それを第一にやってくれと言われています」という日野にとっては、これが「サポーター」としての今季ラストゲームとなりうる。
「(いままでも)チームの合宿があるときなどは現役選手としての時間を優先させてもらえていた。ありがたいです」
年末年始はリーグワンへの準備に集中。冬から春にかけ、静岡の地で青い塊を育む。