日本一へのタックルとスクラム。天理大の小鍜治悠太が職務を全う。
さらりと話す。
「ひたむきに身体を当て続けようと思っていたので。天理らしいディフェンスをしたまでです」
2021年1月11日、東京は国立競技場。小鍜治悠太が大学選手権決勝に挑む。天理大の右PRとして先発し、試合開始早々に魅する。
2連覇を狙う早大は、キック捕球からFBの河瀬諒介のカウンターアタックを仕掛ける。ハーフ線付近左へ駆け込む。
天理大陣営はチェイスラインの列を揃え、向かって右で待ち構える。
「しっかり上がって、早稲田がやりたいアタックをやらさんとこう。横(の選手)と常に話し合って、相手にプレッシャーをかけ合おう」
接点から球が出る。小鍜治の出番だ。
対する右PRの小林賢太が突進してくるのに対し、まずはHOの佐藤康が低く刺さる。止まる。ここへ小鍜治も圧をかけ、小林の上半身を受け止める。ターンオーバー!
手にしたボールは近くのLO、アシペリ・モアラへ渡し、突破させる。次の局面でSOの松永拓朗が左大外へ蹴ったことで、天理大は一気に陣地を得る。モアラの効果的なカウンターラックを経て、3分にはCTBの市川敬太が先制トライを挙げた。
ゴールキック成功で7-0。小鍜治が機先を制したとも取れる。殊勲の3番はその点を踏まえ、なおかつこう述べるのだ。
「ひたむきに身体を当て続けようと思っていたので。天理らしいディフェンスをしたまでです」
チームはハーフタイムまでに29-7と大きくリードし、初優勝へまい進する。概ね接点を制する。
そのぶつかり合いで際立った1人が、72分間出場の小鍜治だった。身長176センチ、体重110キロのサイズは、相手の同ポジションである小林より5センチ小さく、5キロ軽い。
一線級にあって大柄と言えないサイズで、向こう側の楕円球へ、足元へ絡みついた。タックルし続けた。
ノーサイド。55-28。関西大学Aリーグは目下5連覇中も、大学選手権では一昨季から準優勝、4強入りと日本一に届かなかったなかでの目標達成だ。感慨深げだった。
「自分でも関東とやり合えることが認識できた。これからの次のステージでも、しっかりやっていきたいです」
大産大附属高を経て天理大に入り、2019年3月には若手登竜門のジュニア・ジャパンへ選ばれる。フィジー・スバでの「ワールドラグビー パシフィック・チャレンジ2019」に参戦した。
学生ラストイヤーは苦しかった。社会情勢を受け6月に本格始動も、8月には寮内で新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生。ここから約1か月も足止めされ、実戦は10月に交流試合が始まるまで待った。
焦りを覚えた。小鍜治が最前列で組むスクラムは、FW8人の呼吸や結束が求められる。反復練習がマストだ。
ところが9月の練習再開までの間に、中断前までの積み上げがリセットされたようになったと小鍜治は漏らす。
「正直、めっちゃきつかったです。僕たち、コロナ騒動になる前に組めていた時期は結構、いい感触だったんです。でも、コロナ明けはなかなか自分たちの感覚をつかめないことがあって…」
後ろは、振り返らなかった。中央に入る1学年下の佐藤、左PRで同学年の谷口祐一郎、岡田明久スクラムコーチらと密に話し合い、限られた実戦機会をフル活用する。
「チーム全体もそうですが、スクラム一戦、一戦、成長できた」
ファイナル。対する早大はつかみ合うタイミングを巧妙にずらしていたようで、「正直、最後の最後まで『あ、これ絶対勝てるな』とは思えなかったです。一辺倒のスクラムではなかった。駆け引きがあった」。もっとも要所では、「固まって、相手の重さに負けないように」という理想の形を具現化できた。
後半6分、敵陣ゴール前右で相手ボールの1本を押し返す。
インゴールで転々としたボールを味方SHの藤原忍が抑えるなどし、36-7とさらに点差を広げた。
関西勢がスクラムを組む時は、スタンドの部員が「谷口! 佐藤! 小鍜治!」という具合で前列3人の名前を叫ぶもの。今季は飛沫が拡散しそうな応援が制限されており、エールは手拍子にとどまる。
この特異な状況を「…めっちゃくちゃ寂しいです」と笑う小鍜治は、「寮生活中、皆は『魂で言ってる』と。聞こえてはいないですけど、心には届いている」。外的要因に惑わされず、タックル、スクラムと職務を全うした。