国内 2021.01.19

「痛い目」にあわねば。王者・天理大の小松監督、関東勢との対戦機会増加を要望。

[ 向 風見也 ]
「痛い目」にあわねば。王者・天理大の小松監督、関東勢との対戦機会増加を要望。
日本一になった天理大学。左から小松節夫監督、松岡大和主将、シオサイア・フィフィタ副将


 今季の大学選手権で初優勝を果たした天理大の小松節夫監督が、関西ラグビー協会の萩本光威会長、中尾晃大学リーグ委員長へ関東勢との交流を増やすよう求めた。

「関東のチームは関東のチーム同士で(質の高い)試合をして、選手権では(それぞれが加盟する)対抗戦、リーグ戦と同じことをもう1回、しているんです。逆に関西のチーム同士が選手権で…ということはなかった」

 加盟の関西大学Aリーグでは5連覇の天理大は、全国上位校の集う大学選手権では昨季4強で一昨季準V。他の関西勢はその間、関東勢とのカードでは未勝利に終わっている。

 対戦結果を裏付けるプレーの質については、このほど頂点に立ったFLの松岡大和主将もこう認める。

「ブレイクダウン(接点)での速さ、コンタクトの強さは全然、違う。(関東勢の選手は)身体も大きいので、選手権ではその点でどういい準備をしていくかが大事でした」

 この潮流と自軍の歩みを踏まえ、小松監督はこう述べたのだ。

「今年のチームには1年生の時から(選手権で)悔しい思い、悔しい経験を積んできた4年生が多かったのが大きかった。東京へ1回パッと行って…では勝てない。アウェーの雰囲気、分析力の高さを体感し、それに負けないようにするには…の繰り返しでした。3回修正して、4回目、挑戦できた感じ。我々を通して関東を(意識する)…というのも大事ですが、もっともっと(さまざまな関西のチームが)関東と試合をして、痛い目にあって…となれば我々はもっと関東に近づく。関東と何回も、何回も試合をする(のが大事)」

 話をしたのは1月18日。YouTubeで生配信された関西ラグビー協会主催の対談企画でのことだ。

 今季は大学選手権の準決勝、決勝で、昨季のファイナリストだった明大、早大を順に下して悲願達成も、早くも未来を見据える。

「(来季は)怖いですよね。あの明大さん、早大さんが天理大を意識する…。今季はそれまでに明大さん、早大さんに負けたことでの悔しさが(チームの)ベースにあったんですよね。今度は逆に向こうが『打倒天理』と…思うかどうかはわからないですが、(王者の)我々を目標にする。いまは我々に、悔しさがいったんなくなってしまっているわけで。これからどうアプローチし、チャレンジャーとして挑戦するかが大きな問題です。勝ったのでハードルが上がってしまった。そんなような気もしますね」

 ましてやSHの藤原忍、SOの松永拓朗といった1年時からレギュラーだった主軸は、今季限りで卒業する。松岡主将も、話の流れで「(今季)負けたら本当にもったいないなと思っていた」と認めたものだ。

 天理大が頂点に立った現況を関西ラグビー界の活性化につなげるには、仕組みによるフォローアップが必要だと小松監督は訴えるのだ。

 萩本会長は「毎年(全国)4強で最低2つは関西勢。そのうち1つは決勝へ」という理想を掲げ、関東、関西、九州の3地域の選抜チームの対抗戦などを企画していると明かした。実現が待たれる。

 動画では、優勝の舞台裏も話題に挙がった。

 昨季まで突破役として活躍してきたアウトサイドCTBのシオサイア・フィフィタ副将は今季、ラン、パス、キックと多彩なプレーを使い分けていた。

 小松監督は早大との決勝戦の記録(1月11日/東京・国立競技場/〇 55-28)をもとに「決勝では彼のトライがゼロだった。これが象徴です。彼が起点となってパスをつないで…というチームの形が決勝に出た」。フィフィタは昨季オフ、サンウルブズの一員として国際リーグのスーパーラグビーへ挑んでいた。天理大合流後のフィフィタの様子について、小松監督は言った。

「プレーの幅、人間としての幅も広がって。練習態度も…まじめに、なりました! オフの日もグラウンドに出て1人で走っていて、体脂肪も減って、キレが出てきた。それを見た周りも一緒にトレーニングをし出した。いい効果がありました」

 同席していた当の本人もこうだ。

「(以前は)しんどい練習をやるのが嫌いだったんですよ! フィットネスでもプロップが前で走っているのに、自分だけ後ろで走るとか…。(多彩なプレー選択は)勝つために必要だと思いました。去年、一昨年を振り返った時、外にスペースがあるのに(相手に)当たってしまったことがあって。それを見て、勉強しました。選手権前には(国内最高峰の)トップリーグの人からもアドバイスをされました。今年はチーム自体がいい準備をしてきていて、試合前のジャージィ渡しの時は、僕が一番、泣いていました」

 フィフィタは、頂点に立つまでの苦労も明かす。

「175人いる部員をひとつにまとめるのは難しい。大和と僕だけじゃなく、リーダー陣で毎日毎日、いろんなミーティングをして、そこで気になったことを小松さんに話したりした」とし、こう続ける。

「大和も、何回もストレスを抱えたり、パニックになったりした時もあったんですけど、皆が助けて、決勝までにチームがひとつになった。ひとつにならないと優勝はできないと思っていました。僕ら4回生はこれで終わり。(来季は)弱いと言われているんですけど、僕のなかでは、やればできるんですよ、優勝って。ホンマにしんどいことをやって、皆がひとつになって戦う。それが揃ったら優勝できると思う。頑張って欲しい」

 小松監督が2連覇を期待されるなか、松岡とフィフィタは新たなステージへ進む。松岡が「またひたむきにハードワークする。(新天地で)試合に出て、日本代表になって桜のジャージィを…」と未来を語り、フィフィタもこううなずく。

「大和、藤原、松永と(日本代表の)桜のジャージィを背負って戦いたい。新しい目標に向かって頑張りたい」

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