大分東明の「HOOOO!」が花園に響いた。ジョアペ・ナコはチャレンジを楽しむ。
好プレーが生まれる。あちこちから甲高い「HOOOO!」のかけ声が飛ぶような。
無観客だった東大阪市花園ラグビー場の第1グラウンドが、異国情緒に満ちた。
今季の全国高校ラグビー大会にあって、大分東明はモットーの「エンジョイラグビー」を体現する。ジョアペ・ナコはこうだ。
「今年は皆、一人ひとりのプレーがわかっている。パスができる人、ゲーム(作りが)できる人…。自分は外にいて、パスをもらってゲインラインを取れた」
誰もが果敢だった。息が合っていた。
HOの内尾千剣は肉弾戦にタフに仕掛け、SHの宮川博登主将は機を見て鋭いサイドアタックを繰り出す。CTBの日隈太陽は相手に迫りながらスペースへパスを散らし、FBの伊達壮次郎は小気味よいフットワークでタックラーをかわす。
主軸を担ったのが、一昨季に来日のフィジー人留学生だ。
NO8のセコナイア・ブルとWTBのナコは、それぞれ公式で「194センチ、123キロ」と「182センチ、96キロ」。長い手足を活かしたラン、オフロードパスで魅する。
ラグビー界には「フィジアンマジック」との言葉がある。幻惑的なプレーを繰り出すフィジー人選手を表す。ナホは自らオフロードパスを決めた試合の後に「フィジアンマジックという(言葉がある)」とし、謙遜する。
「オフロード…。自分はあまりうまくないかもしれないけど、よくチャレンジして、つなげられたかなと」
圧巻のプレーがあった。2020年12月30日、目黒学院との2回戦でのことだ。
10点リードで迎えた後半9分。大分東明は敵陣10メートル線上中央やや右寄りの位置で、自軍スクラムを得る。
塊の後ろからブルが駆け出す。ゆったりとステップを踏む。3人の敵を引き寄せ、右手一本でバックフリックパスを放つ。
次はナコだ。上空に手を伸ばして楕円球を受け取る。人垣をすり抜ける。
インゴールに達した。
自身にとってこの日2本目のトライを決め、「HOOOO!」の声に包まれるのだった。試合は25-12で制した。
「去年から今年は(中央のCTBから外側のWTBに)ポジションが変わった。タッチラインを出ないように、ゲインを取りたいと思う」
2人は防御でも光る。なにより日本語がうまい。ナホによれば「寮の皆がフレンドリーで、よく僕に話しかけてくれる」。勤勉で明るい性格でも周りを引っ張った。
「2年前に来た時は日本語や日本の文化について全然わからなかった。でも、今年は3年目。日本人の子たちもフレンドリーで、楽しいです」
ちなみに来日時に驚いたことは、「挨拶」らしい。
「学校でも、グラウンドでも、目上の人たちに合ったら何回でも挨拶する。(フィジーでは)最初だけ挨拶して、その日のうちはあまり挨拶をしません。日本では、同じ人に一日に何回、会っても挨拶をする」
県予選では全国常連校だった大分舞鶴を2季連続で破り、第100回目となる今度の大会では初の3回戦進出を決めた。大分舞鶴のOBでもある白田誠明監督は、2人に敬意を表すのだった。
「一生懸命やる。成長を楽しむ。きついことを前向きに、笑顔でやる。東明ラグビーの礎を作ってくれた2人です」
かくして迎えた2021年元日は、悔し涙に暮れた。10回目の全国で初の8強入りを狙う中部大春日丘に、17-40と敗れたのだ。
「(目標の)達成はできなかったんで、本当に悔しかったです」
ナコは後半22分に今大会4本目のトライを記録も、さかのぼって16分には自陣深い位置から攻め上がろうとして落球する。失点を招いた。
指揮官は「ミスはしょうがない。チャレンジしたことをほめたい」と潔いが、当の本人はこの調子だった。
「あ、やらかしたという気持ち。ボールが自分の手から落ちて、最悪なところで相手に簡単なボールを渡して。本当に、悲しかったです」
ここで3年のナコは引退する。チームには1年目の留学生2人がチームに残るとあって、白田監督はこう期待する。
「日本とフィジーを融合させたうちのラグビーが、できつつある。今度はそれを(入学間もない)フィジーの子たちが学んでもらって、いい化学変化を起こしてほしいです」
ナコもエールを送る。
「(大分に)帰ってあの2人に(経験や思いを)伝える。あの2人にも3年になる時があるんだから、頑張って欲しいです」
走って、叫んで、泣いて。冬の聖地に確かなインパクトを示した青年は、春からブルとともに日大へ進みそうだ。