天理大フィフィタ、バージョンアップの軌跡。1月11日に大学選手権決勝へ。
千両役者がだめを押した。
「これまでの天理大のなかで、いまが一番強い。僕のなかではそう思います。スキルも上がって、いいラグビーができている。日本一という目標を皆、意識しています」
1月2日、東京は秩父宮ラグビー場。大学選手権の準決勝第2試合でのことだ。
19点リードで迎えた後半33分。天理大副将でアウトサイドCTBのシオサイア・フィフィタが、敵陣10メートル線付近でパスを受け取る。
おとり役を担う味方の後方から、細かくステップを刻む。防御網をすり抜け、快速を飛ばす。
敵陣ゴール前へ進む。一転、右大外へロングパスを放つ。
「抜けた時、外からのコールが聞こえただけで『(誰か)いるんじゃないかな』とスペースに放ったら…」
WTBの土橋源之助がフィニッシュ。直後のゴールキック成功で41-15。天理大は一昨季の決勝で敗れた明大を破り、2季ぶりのファイナリストとなった。
「勝った瞬間は嬉しくて」とは、FLの松岡大和主将。ノーサイドの瞬間は、すぐに担当レフリーへ握手を求めた。喜びを噛みしめた。
「僕自身は最後までやり切ろうと思っていたので。それまで悔しい思い、いろんな思いをしてきているのもあって泣く選手もいたのですが、皆に『最後までやり切ろう』と声掛けをしていました」
11日に東京の国立競技場である決勝戦では、昨季王者の早大に挑む。準決勝で序盤から再三チャンスメイクのフィフィタは、流ちょうな日本語で意気込む。
「まだ早稲田の(準決勝の)映像は観ていないですけど、いいラグビーをしてくると思う。残り1週間。日々の練習でしっかり試合をイメージしてやりたいです」
2014年にトンガから来た。日本航空高校石川時代から名を売り、高校日本代表となった。天理大でも20歳以下日本代表、ジュニア・ジャパンといった若手の精鋭集団に名を連ね、早期の正代表入りを目指した。
昨年1月には、スーパ―ラグビーに日本から加わったサンウルブズと契約した。シーズンが3月に中断するまでの全6試合へ出場した。世界の一線級に触れたのを受け、私生活を変えた。公式で「身長187センチ、体重105キロ」の身体を絞り込んだ。
「食事は皆より、少し、減らすくらいです」
自身のSNSでは同僚とラーメンをすする様子を共有も、それはあくまで「2週間に1度くらい」の楽しみだという。
心拍数も上げた。昨春以降、水面下で編成された2020年度の日本代表候補に名を連ねていた様子だ。6、7月に開催予定だった代表戦に向け、定期的なオンラインミーティングに参加。走り込みや筋力強化のメニュー、定期的なフィットネステストが課された。
「フィットネスは必要。きちんと準備してください」
ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチから、画面越しにこう言われたという。
「(メニューは)きつかった…。でも、自分のためにも、(やって)よかったです」
チームがコロナ禍に巻き込まれた8月も、隔離状態のフィフィタは身体をいじめ抜いた。
「(雌伏の時は)Zoomで『●時から●時まで』とリンクを作ったら、皆、思ったより、集まってくれていました。部屋のなかでもできるトレーニングをしました。いまは(活動時以外は)天理市から出たらだめ。それを、守っています」
秋以降の公式戦では、力強さと同時に鋭さを示す。新春の好走の裏に、努力の跡をにじませるのである。同学年のチームメイトもうなずく。
「かなりストイックになったような。よく走るし、食事も気をつけているのが身体に出ている」
今年の日本代表活動へもぜひ加わりたいというフィフィタ。まずはチームの悲願である初優勝へまい進する。