いま勝って10年後も勝つ。大阪朝鮮高・李錦寿、花園制覇で「使命」を果たしたい。
目尻を下げて味方の「FW」を称える。
大阪朝鮮高級学校(大阪朝高)ラグビー部副将の李錦寿は、マスクの奥から人懐こさをにじませる。
「FWががんばってくれるから、前に出てディフェンスができた。厚さがあった」
2021年1月1日、大阪は東大阪市花園ラグビー場の第1グラウンドに立った。チームにとって2大会ぶり11度目の出場となる全国高校ラグビー大会の3回戦で、秋田工を下した。
定位置のSHに入った。試合開始早々、グラウンド中盤の接点からやや狭い左サイドの空洞へ球を持ち出す。さばく。勢いを生む。仲間の好走と相まって敵陣22メートル線を越えると、一転、ゆったりとフェーズを重ねて先制点を導いた。
直後のゴールキック成功で7-0。前半3分だった。
「仕掛けられるところは仕掛ける。相手の強いFWを(体力を削るために)走らせる」
守りでも魅する。自らのトライで12-0として迎えた11分頃、自陣中盤左で突進してきた相手のボールへ手をかける。かすめ取る。
大阪朝高は続く27分頃にも、タフな防御で向こうのエラーを誘っている。李が「厚さがあった」と微笑むのも当然だ。
ハーフタイム直前には、最後尾のFBへ入った金昂平がカウンターアタックでチャンスメイク。ラックを作る。すると李は、その場にかかる圧力をものともせずに右サイドへ展開する。金洸寿のフィニッシュを演出し、19-0と主導権を握った。
だめを押したのは足技だ。31-14とリードしていた後半18分。まずは敵陣22メートル線付近右のモールの、さらに右脇をえぐる。最後はタックラーの背後へパントキックを上げ、金昂平のトライをお膳立てした。コンバージョンが決まって38-14となった。
結局、38-21のスコアでノーサイドを迎える。チームにとって通算5度目の8強進出が決まった。殊勲の9番は意気込む。
「スローガンは、『使命』です」
幼少期に尼崎ラグビースクールと邂逅(かいこう)。花園へ全国大会を観に行くようになると、すぐに大阪朝高の虜になった。
2009、10年度の大阪朝高は、才能を揃えて2季連続で4強入り。金勇輝、権裕人の両CTBは、後に国内トップリーグのNTTドコモ、パナソニックへ加わっている。李が数ある強豪校のなかからいまの居場所を選んだのは、幼少期の憧憬があったからだ。
今度の全国大会へ臨む気持ちもまた、その憧れとつながっている。
各地の朝鮮学校では近年、生徒が減少傾向にある。それはラグビー部の入部希望者の数にも影響。『ラグビーマガジン』2021年2月号別冊付録の『第100回全国高校大会ガイド』によると、大阪朝高の部員は「3年21人、2年7人、1年11人」となっている。
李は今大会を制することで、数年来の流れを変えたいのだ。そこに「使命」の意味を見出す。
「僕たちが活躍することで、大阪朝高でラグビーがしたいと思える子が出てくるようにしたい。だから全国大会で優勝するのが使命だと思っていて。今年だけじゃなく、5年後、10年後も大阪朝高に強くあって欲しい」
あと3試合、自分たち以外のためにも戦う。3日の準々決勝では流経大柏に挑む。
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