コラム
2020.05.24
ラグビー金言【14】この勝利は差し上げます。
2008年11月16日に秩父宮ラグビー場でおこなわれた花園予選、東京第2地区の決勝は10-7。東京高校が明大中野高校に競り勝った。
互いに力を出し切った好ゲームだった。
両チームとも自分たちのスタイルを出した。
東京高校は2トライを奪う。前半4分と21分。骨太の選手たちが中盤で結束を固めて突き進み、反則を誘う。敵陣深くキックを蹴り込み、ラインアウトからのモールで仕留めた。
明大中野高校はタックルを浴びせ続けた。少ない好機に自陣から攻め、走り切り、1トライも返した。
しかし、僅かに届かず。山口誠主将は「最後に逆転したかった。僅差で勝つプランを実行できそうだったけれど」と唇を噛んだ。
当時、明大中野高校の監督を務めていた大和貞さんは試合後、選手たちを集め、健闘を称えた。
涙をこらえていた大和さんは話し終わると、すぐにうしろを向き、泣いた。
そして、しばらくして報道陣に下記のように話してくれた。
【大和貞さんの金言】
「負け惜しみでなく、この勝利はあちらに差し上げます。東京高校はよく鍛えられ、素晴らしいチームでした。それに対しウチの子どもたちも立派。最後まで崩れることがなかった。それでダメだったんだから差し上げます。そのかわりウチの子どもたちは大きなものを手にできた。あれだけタックルしても、あれだけ頑張っても、思いが通じないことがある。それを、身をもって経験できた。社会に出たら、必ずそんな困難と出会います。子どもたちは、この歳にしてそれを知った」