トップリーグ開幕へ。ヤマハ堀川新監督が大躍進した日本代表の逸話明かす。
国内最高峰のラグビートップリーグは1月12日に開幕。無名選手の育成と独自の戦法に活路を見出してきたヤマハは、地元の静岡のヤマハスタジアムでトヨタ自動車を迎え撃つ。
前監督の清宮克幸(現 日本ラグビー協会副会長)は昨季(2018年度)まで8シーズン指揮し、2014年度の日本選手権を制覇している。目下、5季連続で4強入りと安定的な強さを誇っており、今季は堀川隆延新監督がそれまでの参謀役から内部昇格。代表関連活動の経験を活かし、チームをバージョンアップさせる。
「新しいリーダーがリーダーシップを発揮し始めている。周りをサポートする選手たちと一緒に、どうあるべきかのプレーヤーズビジョンを作っています。グラウンドでの彼らの表情を見れば、去年との違いがわかります。清宮さん(体制)が代わってどうするか。そのあたりの意識の変化は、いい方向に出ています」
指揮官はここ3年、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる日本代表に携わってきた。昨年は冬から春にかけ、日本代表候補群のラグビーワールドカップトレーニングスコッドキャンプ、ウルフパックの活動へ参加。ワールドカップ日本大会で8強入りしたチームのアンストラクチャーからの攻撃方法やスキルを習得した。ヤマハ所属で同ワールドカップに出たヘル ウヴェも、期待感を口にする。
「堀川さんがいろんな経験をしてきて、それをミックスしている。今年は、チャンピオンになりたい。本当にチャンスがあると思います」
チームには、長谷川慎コーチが3季ぶりに復帰。清宮体制下でスクラムを鍛えてきた長谷川コーチは、2016年秋から日本代表を指導している。従来通り強力なスクラムを軸にしながら、「スクラムは大事ですが、それ以外の部分でもワールドスタンダードを求めます」と堀川監督は言う。
「これまでヤマハでやっていたものを革新することを期待している。オフ・ザ・フィールドの部分を含めてです。彼らの経験をフィードバックし、それをヤマハ風にアレンジしながらやっています」
ワールドカップ日本大会の日本代表活動で、印象的な出来事があった。
エコパスタジアムでのアイルランド代表戦を前日に控えた、9月27日のことだ。
堀川は日本代表のプレーヤーズミーティングに登壇。雪のアルプス山脈で起きたハンガリー軍の遭難事故のエピソードを例に戦いに挑む心構えを説いた。ハンガリー軍は1人の隊員の地図を頼りに下山に成功したが、その地図はアルプス山脈ではなくピレネー山脈の地図だったという。
「(自身が読んだ)本に書かれていた例え話です。たどっていくと実話だとわかったので、これなら選手に話せると思いました」
これをスポーツに置き換えれば、作戦の妥当性を問うよりも作戦を全員で信じることが重要だというメッセージが浮かび上がる。堀川監督がその心を明かす。
「2つの意味があると思います。地図が戦略とするならば、大切なことは(事前に用意した戦略に固執せず)自分たちが目で見て判断すること。一方で、地図が間違っていてもそれを信じることも大事…。そんな話をしたら、ゲーム主将のラピース(ピーター・ラブスカフニ)が言いました。我々は正しい地図を持っている、って」
日本代表は翌日、ワールドカップ開幕直前に世界ランク1位だったアイルランド代表を19-12で撃破。プール戦全勝で8強入りを決めている。そして、競技人気が高まるなかで開かれる今度のトップリーグ。ヤマハは新しい基準を信じ合い、スタートラインに立つ。