明大FW日本一へ。堅陣支えた「積極的に接する」の心。
ラストワンプレー。明大は失点直後のキックオフから防戦一方。早大にわずかずつ前に出られる。しかしなんとか、堅陣を保つ。
11フェーズ目でハーフ線を破られても、紫と白の防御網は懸命に隙間を埋める。単騎で飛び込んでくるランナーの足元へ、タックラーが確実に刺さる。
2019年1月2日、東京・秩父宮ラグビー場。大学選手権準決勝の第1試合がクライマックスを迎えていた。昨季準優勝の明大が5大会ぶりに4強入りの早大へ挑み、後半35分には31-20とリード。続く39分には31-27と点差を縮められるが、動じなかった。
ロスタイムに突入していた17フェーズ目。早大PRの千野健斗が倒れた先へ、途中出場していた明大FLの朝長駿が絡む。球に手をかけ、ミスを誘う。間もなく味方がボールをタッチラインの外へ蹴り出し、ノーサイドの瞬間を迎えた。
後半34分に貴重なトライを決めた明大NO8の坂和樹は、守り続けたシーンをこう誇った。
「厳しい時間帯を想定して練習していた。自分たちのディフェンス(システム)、仲間を信頼してできたと思います」
明大は、朝長が投入される前の後半10分前後にも37フェーズもの攻めに耐えている。ここでは自陣でこぼれ球を拾うや、一気に敵陣深くまで攻め返した。20分、ゴール前左中間でのスクラムを起点にトライを奪った(ゴール成功でスコアは24-13)。
勝利を支えた見事な防御。そのテーマは「2 in ファイト」だった。タックラーが相手を倒して作った接点へ、もう1人の選手が絡む。こうして相手のテンポを鈍らせるかたわら、それ以外の選手は声を掛け合って分厚いラインを敷く。向こう側のパスが乱れるようなら、一気に揃って前に出る…。接点へ「2」人が関わるのを基本とし、自前の防御システムを全うした。
「早大はフォワードとバックスのリンクのところがうまいので、そこで明大はリンク(防御時の連係)を切らさずに…」とは、4年生PRの祝原涼介。12月2日に秩父宮でおこなわれた関東大学対抗戦Aの同カードは、27-31で落としている。防御を引き締めることでリベンジを叶え、控えめに笑った。
結束力を高める出来事が、12月14日にあった。
大学選手権3回戦を直前に控えたこの時期、田中澄憲監督の提案で4年生部員が決起集会を実施。グラウンド内外でチームを引っ張る最上級生のあり方を、皆で見つめ直した。
その思いに、下級生も応じる。
「やはり、話さないといけない」
こう語るのは3年生の坂である。過去と現在の上級生の違いを「いままでの4年生は自分のプレーでチームを変えると思っていたと感じますが、いまは話し合いが増えたと思います」とし、こうも続けた。
「4年生は、練習でもよくコミュニケーションを取ってくれる。この1年を通してそう感じますし、ここ1か月でそれがより増えたと思います。逆に、自分たちからも積極的に話すようにしています。積極的に接するのが、大事だと思います」
互いの信頼関係が高まるほど、防御の質も高まる。
4年生FLの朝長は、最後に披露した決定的な仕事を「自分の持ち味にしています」と語ったことがある。接点で相手ボールへ絡むジャッカルというプレーを自らの「武器」としていて、このクライマックスシーンでは11フェーズ目の接点で球を奪いかけていた。
「武器」を繰り出せる背景には、味方防御の充実ぶりを挙げる。まだチームが始動したばかりの頃、すでにこう話していた。
「去年に比べてディフェンスラインのコミュニケーションが取れている。それで誰がタックルに行くのかがわかりやすくなっていて、その分、ジャッカルに行きやすくなってきた」
味方同士で声を掛け合うなか、両軍の動きや陣形を事細かにチェックできるようになった。その延長で、相手の援護が薄い接点へ効果的に飛び込めるのだという。
そしてこの「コミュニケーション」の濃度は、12月の会合を経てより密になっている。
最上級生の朝長が最後の一手を打ったのは、必然のようでもあった。明大は12日の決勝で天理大と対戦。22年ぶりの日本一を目指す。