国内
2018.09.04
木津武士&林泰基、日野のトップリーグ初戦初勝利の要因を振り返る。
開幕戦でフル出場した33歳の林泰基。日野レッドドルフィンズ2年目(撮影:松本かおり)
国内最高峰トップリーグ初試合で初勝利。日野レッドドルフィンズがたった一度しか訪れないチャンスをつかんだ。勝因はセットプレーと組織防御。昨季までの下部リーグ時代からの強みだ。「社員とプロの融合」を謳うクラブにあって、移籍組が力を示した。
8月31日、東京・町田市立野津田公園陸上競技場。宗像サニックスブルースとのトップリーグ開幕節で最初にリードを奪ったのは、前半28分だった。敵陣ゴール前右でのラインアウトを後方で捕ると、日野のFW陣がインゴールになだれ込む。栗田工業から新加入のFL、アッシュ・パーカーのトライなどで、10−3と勝ち越す。
きっかけは、それから約2分前のスクラムにあった。日野のパックは、ハーフ線付近中央での1本を押し込む。
レフリーにアドバンテージ(相手の反則後もプレー継続の方が有益と見なされること)を宣告されるなか、BK陣が右サイドのスペースを攻略。攻め続けるなかで再度、宗像サニックスのペナルティを引き出す。獲得したペナルティキックを、件のラインアウトにつなげたのだ。
「押せた時は、押せる状態が整っているから、押したと思うんです」
試合後にこう振り返るのは木津武士。神戸製鋼から加わったばかりの元日本代表で、スクラム最前列中央のHOとして先発していた。ここでの「押せる状態が整っている」とは、相手との姿勢の取り合いで優勢だったという意味だろう。
「常にその状態で組めると、スクラムが強いと言われるようなチームになっていく。甘くはないと思いますけど、一本、一本、いいルーティーン、いいセットアップ、いいヒットができればいいですね」
この夜の木津は、右PRに入ったパウリアシ・マヌの力を前面に押し出すよう意識した。マヌは、スーパーラグビーのブルーズからやってきた強靭なスクラメイジャー。分厚い背筋を芝と平行に保ち、宗像サニックスの塊にまっすぐ突き刺さっているようだった。殊勲の一本のみならず、表面上は互角にも映るスクラムでも安定感を保った。
木津が背景を明かす。
「個々の強さ、重さはあります。ただ、僕が日野に来たばっかりの頃は(スクラムを組む)8人がバラバラだった。開幕前までに自分なりに『こういうスクラムを組もう』というものをまとめてきた。間に合ってよかったと思います」
リードを広げた36分のスコアは、組織防御が生んだ。
直前までは自陣ゴール前で防戦一方も、日野はマヌの強烈なタックル、パーカーの再三にわたる肉弾戦への絡みなどで耐える。
右から左に球を回された先で、LOの村田毅主将が接点の球に手をかける。すると、警戒されていたのだろう、宗像サニックスのサポート役が複数名がかりでその場から村田を引きはがしにかかった。おかげで次の攻防では、宗像サニックスの攻め手が3人だったのに対して日野の防御が5人。個々の渋い働きが組織運用を滑らかにした。
以後もしばらく球をつながれるも、最後は日野の生え抜きWTBの小澤和人が自陣22メートルエリア右で宗像サニックスのパスミスを拾う。前に蹴る。
弾道を追ったFBのギリース・カカは向こうのWTBのアンドリュー・エブリンハムに阻まれたが、一緒に走っていた新人SHの橋本法史がフィニッシュ。直後のゴール成功で、スコアを17−3とした。
「こういう戦い方が日野に合っている」とは、林泰基。パナソニックでトップリーグ3連覇を成し遂げたインサイドCTBで、前年度から日野に移って下部からの初昇格を成し遂げている。「こういう戦い方」とは、パナソニックも得意な防御主体のプランのことだ。
守備力と紐づいて光ったのは、状況に応じて蹴り分けられたキックだった。ボールをそのまま再獲得したい時は上空へ高く、皆で列をなしてプレッシャーをかけたい時はとにかく遠く、仕切り直したい時はタッチラインの外へ柔らかく。司令塔のSOで出たへイデン・クリップス、染山茂範副将、FBのカカが周りの声を聞き、足を振った。
林はキッカーたちに「染山、クリップシー(クリップス)、カカ。オーダー通りのキックを蹴られる選手がいる」と感謝。自らもタックル後の素早い起立を保ち、チームの守りをこう総括した。
「きょうは早くセットして幅(互いの間隔)を持って、アップする。単純なんですけど、それを徹底的にやろうとしました。皆でコミュニケーションを取りながらできたことです。まだ手探りでやっている状態ですが、これを積み重ねていけばもっといいディフェンスができる。要所、要所でいいキャラクターもいるのでおもしろいです」
チームは後半も危なげない試合運びを続け、すでに木津が退いていた36分にも敵陣ゴール前右でスクラムトライを奪う。33−3。トライ数でも3本の差をつけて勝利し、ボーナスポイントを含む勝点5をマークした。他が接戦ばかりだったことから、参加するレッドカンファレンスで暫定首位に躍り出た。
「(戦前から)うまくいけば勝点5を取れるなというイメージはできていたんで。なるようになったな、という感じです」と30歳の木津。実は夏場の怪我などで練習試合の出場数が限られ、初戦の3日前も38度の高熱を出し練習に出られなかった。合計61分プレーしたこの日は、「(試合では)案の定、足がすぐにつりましたね。後半に入ってすぐ。スクラムを押しにいったらビキーンって」。納得できるスクラムの構築まで、いくつもの壁を乗り越えてきたと言える。
「トップリーグデビューをしたいという若手もたくさんいて、チーム内の争いもよりよくなってきている。これで調子に乗ることなくいきたいです」
33歳の林も、いまの日野には「伸びしろしかない」と気を引き締める。得意の防御について、今後をこう展望する。
「出ている人間同士でお互いの動きを理解しあって、一人ひとりのレンジ(守備範囲)がどれくらいあるのか(を知る)。それぞれができることも、できないことも、どんどんしゃべっていって、助け合っていけるように。このチームは(トップリーグに)上がりたてだし、すべてが学びの時間です」
第2節は9月8日、愛知・ウェーブスタジアム刈谷でおこなわれる。日野と同じく初戦白星の豊田自動織機を制し、クラブ史上初となるトップリーグ開幕2連勝を決めたい。
(文:向 風見也)