コラム 2025.10.30

【ラグリパWest】前年比で350%増。五十野海大 [レッドハリケーンズ大阪/FL]

[ 鎮 勝也 ]
【ラグリパWest】前年比で350%増。五十野海大 [レッドハリケーンズ大阪/FL]
レッドハリケーンズ大阪の五十野海大は今年12月のリーグワン開幕で社会人4季目を迎える。FLとして昨季は7試合に出場した。今季、注力したスクワットではここまでMAX20キロ増の210キロに伸ばした。さらなる飛躍が期待できる。この写真は表情を作ってくれています

 上昇曲線を描く若手のラグビー選手がいる。五十野海大(いその・かいと)だ。来年1月で25歳。力強さが要求されるブラインドサイドのFLを任されている。

 所属はレッドハリケーンズ大阪。チーム名の短縮形は「RH大阪」だ。所属はリーグワンのディビジョン2(二部)。2024-25の前シーズンは8チーム中4位だった。

 RH大阪における五十野の最初のシーズンは2022-23。大体大在学中にアーリーエントリーを受ける。公式戦出場は1。次は2。そして前シーズンはすべて先発で7試合に出た。経済誌的には前年比350%増である。

 五十野は182センチ、107キロ。体が示すようにその目も鼻も口も大きく、眉は太い。
「会社もチームもめっちゃいいです」
 自身好調の理由をそこに求める。大ぶりな顔は笑えば崩れ、すべて線になる。

 才口將太は五十野の長所を話す。
「キャリアーとして前に出られます。アタックもディフェンスも思い切りがいいです」
 プレーもそのたたずまいだけでなく男らしい。才口はチーム広報などをこなすOB。現役時代はFBだった。

 五十野の言う「いい会社」とはNTTドコモ。チームは部局のひとつの扱いで、外国人選手以外は社員選手で構成されている。引退後の心配はいらない。五十野はNTTドコモビジネスソリューションズに出向している。

 勤務先は滋賀支店。五十野の出身地だ。グラウンドのある大阪・南港から距離はあるが、仕事はしやすい。
「リモートが軸になります」
 担当は法人営業の支援。業務用電話の貸し出しや研修やアンケートの周知などをする。ラグビーに注力させてもらっている。

 いいチーム、と話す理由もある。
「先輩が奥深いところまで教えてくれます」
 同じFLの佐藤大朗や栗原大介の名前が挙がる。栗原は昨年、現役引退したからまだしも、佐藤にとってはライバルだ。それでもチーム永年のことを考え、五十野に自分の知識を授ける。2人は慶大出身だ。

 その会社とチームのサポート以外に五十野は自身の飛躍の訳を口にする。
「去年、留学プログラムでオーストラリアに行かせてもらいました」
 6月から9月まで3か月間、ブリスベンのブラザーズ・ラグビー・クラブに属した。

 このクラブにはオーストラリア代表のジェームズ・オコーナーやタニエラ・トゥポウがいた。オコーナーはSH以外のBKをこなし、トゥポウはPRである。代表キャップはそれぞれ68と64を有している。

 そのクラブで目を開かれる。平凡な選手が「俺が一番」と広言していた。
「自分はミスにビビるところがありましたが、悩んでいることがばかばかしくなりました」
 自分本位でいい。そこに行きつく。

 帰国後、2024-25シーズンにおける開幕先発を勝ち取る。12月22日のGR東葛戦は34-13で勝利した。開幕3戦目から欠場。「肩を痛めました」。最後は6戦中5試合に先発して、復活を印象づけた。

 その五十野を作り上げたのは高大での猛練習だ。滋賀の八幡工、そして大体大を経由する。高校では<鬼押し>があった。
「3人が乗った木製のスクラムマシンを8人で70メートルほど押しました」
 学校の読みは「はちまん」。地元では「ハチコー」と呼ばれている。

 大体大では<レンジャー>だった。ゴールと並行に腕立て伏せをしながら、22メートルラインまで移動する。1回で前に進めるのは肩幅の長さのみ。これを2往復やった。

 その五十野をRH大阪の現ヘッドコーチ(監督)、松川功が誘い入れた。松川は大体大のOBで母校に指導に訪れたことがあった。
「声をかけていただきました」
 五十野は1年からLOで公式戦出場。2年から関西リーグのB(二部)で戦う。

 大学では2年からひとり暮らし。料理も作る。高たんぱくな鶏むね肉をよく食べた。
「最後はステーキに行きつきました」
 塩と胡椒、そしてバジルで味を調える。今は練習後にチーム食が出る。幸せである。

 ラグビーを始めたのは八幡工に入学後だった。中学時代はサッカー部だった。
「おデブちゃんにはむきませんでした」
 ラグビー部には友も多かった。チームは冬の全国大会に2、3年時に連続出場する。五十野はLO。3年時の98回大会(2018年度)は2勝して、3回戦に進出する。27回の出場歴で最高位タイだった。

 3回戦の相手は東福岡。7-80で敗れたが、唯一のトライをモールで挙げる。
「押し込めました」
 五十野は振り返る。鬼押しの効果は出た。スクラムとモールは同じ密着プレーであり、バインドの強さが鍛えられる。

 高校でラグビーに移ったのは、中3時のW杯で日本が南アフリカを34-32で降したこともあった。感動した。大体大に進んだのは監督の小宮山彰人がOBであり、チャレンジを望んだ結果でもある。当初の高卒での就職計画は大きく変わる。だから人生は面白い。

 五十野は今年12月に社会人ラグビー4シーズン目を迎える。スクワットもデッドリフトも20キロ増の210と240キロにした。
「死にそうなメニューをこなしています」
 ハイパフォーマンスコーチは井野川基知。静岡BRから前シーズンに加入した。

 そのハードトレの気分転換は趣味のツーリング。ヤマハXJR400で目指すのは和歌山との境、大阪の南端にあるみさき公園だ。
「懐かしの道。海があってキレイです」
 大体大はこの岬町から近い熊取にある。

 ここまで、五十野は若手のためのライジングを含めシーズン前の全3試合に先発した。来るべきシーズンの目標を語る。
「個人的には全試合に出て、活躍すること。チームはディビジョン1昇格です」
 9人で構成されるリーダーの一員にも初めて指名された。大化けへ一直線である。

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