【連載】プロクラブのすすめ⑳ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] ホストスタジアムを持つ価値。
日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
20回目となる今回は、今季の事業面での目標やリーグの課題であるスタジアム確保について語ってもらった(11月1日)。
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――2024-25シーズンの開幕が近づいています。事業の面から今季をどんなシーズンにしたいですか。
ヤマハ発動機からの支援以外のスポンサーやチケット、グッズの売上をどれだけ伸ばせるかが焦点になります。
クラブの部長やGMが出席してリーグのこれからを話し合う「リーグワン経営者会議」(11月1日開催)では、母体企業の支援割合などの数字が開示され、何年後かには全収入に対する母体企業の支援比率を50%とすることを目指そうという議論もしています。
我々としては母体企業以外からの売り上げが2~3年後には10億円に達する見込みです。ただそれでもまだ50%には満たないのですが。
これまでの3年間は、事業スタッフの採用に投資してきました。ですが来季(2025-26シーズン)以降はチームの強化にもう少し予算を使っていこうと思っています。
そのためにも、母体企業からの支援以外の売上をしっかり伸ばしていくことが重要になります。
――前回の連載で、ブルーレヴズの決算は12月と話がありました。
親会社に合わせて12月決算なので、今季の開幕戦と2節目まで関わるのですが、ほぼ前シーズンの成果が12月の決算に現れることになります。
昨期は初の赤字になりましたが、今期はなんとか黒字化がみえてきている状況です。今期黒字が達成できれば、過去4期のうち3期は黒字になります。
黒字決算が続けば累積利益が積み上がるので、投資できる余力ができる。気は早いですが、来季以降は大胆な発想を含めた選手補強にチャレンジが可能な財務基盤ができると思っています。
これはリスクがヘッジできないようなギャンブルをするということではなく、投資をして仮に最悪のケースになったとしても耐えうる財務状況になっているということです。
静岡ブルーレヴズとなってから3年間で伸びていない数値は戦績だけです(3年連続8位)。2024-25シーズンはなんとしてもそれを打開することが、チームとしても会社としても本当に重要です。
戦績が上向けば投資する絵をより描きやすくなりますし、その期待感によってスポンサーやチケットの売上を伸ばすことにも繋がります。
来季のチャレンジに対するリスクを最小限にする上でも、やはり今季の戦績や集客がどこまで伸びるか。次の2、3年を占う大事なシーズンになると思っています。
――今季は、昨季のようにワールドカップの恩恵を受けられない、いわば”平場”のシーズンです。ブルーレヴズの現状はいかがでしょう。
実はシーズンチケットが昨季よりもすでに売れています。シーズンチケットは今季800席を目標にしているのですが、その数字にも届きそうな勢いです。昨季は約500席だったので、これは大きな伸びです。
これはシーズンチケットのリニュアルが功を奏しました。
これまでのシーズンチケットはホストゲーム全試合(昨季までは8試合)、ヤマハスタジアムだけでなくエコパスタジアムやIAIスタジアム日本平も含めての商品設定でした。今季はそれをヤマハスタジアムだけの設定にしました。これがハマったと感じます。
今季はホストゲームが1試合増えて9試合となり、計画ではそのうちの7試合をヤマハスタジアムで開催しようと調整しています。シーズンチケットをその7試合のみの設定としたわけです。
静岡の西部地域に住んでいる方は、なかなかエコパやアイスタに行けないかもしれないと考え、シーズンチケットの買い控えがあったのかもしれません。ファンクラブ会員の居住地をみても浜松市が一番多いですし、ヤマハスタジアムだけとなれば、シーズンチケットを買ってみようかなとなるわけです。
これで何が分かったかというと、いまのリーグワンではホストゲームの開催において一つのスタジアムを確保できないクラブが多く、セカンドホストエリアや地方開催が増えていますが、これではマーケティングの効率が悪いということなんです。
もちろん我々も静岡のクラブですから、普及のためにエコパやアイスタでこれからもホストゲームを開催したいと思っています。
ですが、一つのスタジアムでホストゲームをできた方が、ファンからすれば「毎試合いけるのでシーズンチケットを買おう!」という欲求に繋がるんだと、あらためて分かりました。それだけ、静岡県の西部地域にコアなファンが根付いてきているとも実感しています。