リッチー・モウンガの凄さには慣れた? ブレイブルーパス杉山優平が頂上決戦を楽しむ。
うまい人と一緒にラグビーをすることで、自分のうまさが引き上げられた感覚はあるか。
答えるのは杉山優平。国内リーグワン1部の東芝ブレイブルーパス東京に所属する26歳だ。大阪桐蔭高、筑波大の主将を務めたSHで、速さ、正確なパスに定評がある。
ポジション柄、「リッチー」ことリッチー・モウンガとコンビを組んできた感覚について話す。
「リッチーの言う『こういう場面ではここにスペースができる』『このタイミングでボールが欲しい』に合わせていくことで、よりスピーディーなアタックを求められるようになった。ただ単にテンポを上げるだけではなく、どのタイミングでテンポを上げるかを自分でも考えるようになりました」
モウンガは29歳で、ニュージーランド代表のSOとして昨秋までに2度のワールドカップに出場。公式の身長と体重は、小柄な杉山よりも7センチ、7キロずつ大きい「176センチ、83キロ」だ。国際舞台にあってサイズには恵まれていないが、ナイフの走り、防御を引き寄せながらのパス、長短のキックを適宜、繰り出す。
今季より加わったブレイブルーパスでも、持てる能力を発揮する。首脳陣の示す攻め方を理解したうえで、リーダーシップを取る。12月中旬からのシーズンでは16試合中13戦に先発し、12チーム中2位。2季ぶりのプレーオフ進出を決めた。
杉山は15回メンバーに登録され、そのうち11度の機会でモウンガと9、10番をつけた。接点からの展開で2人を経由した際、フィールドの外側に大きな数的優位ができることも少なくなかった。
2020年入部のコミュニケーターは、同僚の名手に関してさらに続ける。
「リッチーは、自分がやりたいラグビーとチームのやりたいラグビーをミックスして、皆に落とし込んでいく。もちろん、ベースにはチームのラグビーがあります。それがあるからリッチーもこのチームを選んだと思うんです。ただ、それに加えて(言及するのは)もう少し細かいところです。『こういう場面では、こういう動きが必要なんじゃないか』と、コーチが示している以上のイメージを周りと共有する。それも、(自分の意見に)周りがどう思うのかも吸収したうえでやってくれる」
ファンを唸らせる技巧へは、こう触れた。
「練習でも、あまりパスミスを見たことがない。キックもそうです。本当にドンピシャのところに落とす。最初のほうは『えぐいなぁ』と思っていましたけど、いまはだんだん見慣れてきた…ではないですが、それが当たり前のものになってきた。(球を)もらう側も、ちょっとずつ『(モウンガのパスが)ここに来るんじゃないか』をわかってきています」
実力者の凄さにただ感心するだけでなく、自らが活躍するための準備もしてきた。
昨季終了後はニュージーランドへ渡った。社員からプロになって挑んだ前年度、わずか3度しか出番をもらえなかったからだ。
「自分のなかで、ラグビーのゲーム感覚が足りないなと。また、しばらく、プレッシャーのある決まった枠のなかでのラグビーしかやってこなかった。再びラグビーの楽しさを感じたかった。英語も含め、色々と経験がしたいと思い、(留学を)決めました」
元チームメイトで海外経験のある大内真(リコーブラックラムズ東京)、先んじて現地入りしていた吉川遼(釜石シーウェイブス)の伝手を辿って、ホークスベイにあるクラブチーム「ネイピア・パイレーツ」でプレーした。
「ラグビーの原点を見つけられた。あとは海外の選手とも、つたない英語力で聞き取って、話して…というコミュニケーションを取ることができた」
帰国すると、ほとんどの公式戦でモウンガの相棒を担った。元日本代表SHの小川高廣が怪我を負ったなか、躍進する集団の主力格に遇された。
将来のジャパン入りへは「自分がそのレベルにあればとは思いますが、足りない部分が多い」。まずは5月19日、東京・秩父宮ラグビー場でプレーオフの準決勝に臨む。
その10日前にあたる9日、全体ミーティングでモウンガが登壇。母国クルセイダーズでスーパーラグビー7連覇という熟練者からの金言で、杉山はスイッチを入れた。
「(本番では)いつもと違うプレッシャーがある。それに対してしっかり準備していこうということでした。僕は(レギュラーとして)経験していないし、実際どういうものかわからないですが、会場の観客数、雰囲気も違うし、目に見えないプレッシャーもあるのかなと」
まずは、レギュラーシーズンで2度制した東京サントリーサンゴリアスとぶつかる。大舞台ならではの緊張感を楽しみたい。